相沢沙呼「小説の神様」
- 作者: 相沢沙呼
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/06/21
- メディア: 文庫
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一言で感想を言うなら傑作。でも、どうして傑作と感じたかを説明するとかなり回りくどくなってしまう。
相沢さんのことを知らずにこの小説を読んでも、丁寧な心理描写で感情移入して登場人物の苦悩と成長が胸に残る傑作だと思っただろうけれど、僕が傑作だと思ったのは相沢沙呼への思い入れが無視できない。作者の小説外での言動と作品の感想は関係ないことではあるのですが、相沢沙呼を、というか相沢沙呼のtwitterを知っているかどうかで同じ「傑作」でもそこに込める気持ちがだいぶ違っている。というか、本当は安易にラベリングするようで「傑作」で納めたくないのだけれど、他に適切な言葉が見つからないことすごく歯がゆい。
売上の少なさやネットでの酷評に落胆してダメージを受け、売れている作家への羨望と焦燥を吐き出す一也の姿は鬱ツイートするときの相沢さんそのもので――前に「スキュラ&カリュブディス」の感想を書いた(それがよりにもよって清原さんにリツイートされた)直後に「新刊が酷評されて落ち込んだ」とツイートされていたので、なにか誤解されることをを書いてしまったのかとあわてて弁明したらまったくの勘違いで死にたくなったことはつい昨日のように思い出されるし、書いている今もその時のことを思い出して軽く死にたくなってきましたが閑話休題――個人的に「あまりこういうネガティブなことは表に出さない方が……」と(勝手に)心配しつつも「こういうことを表に出す人だからこそ、相沢作品の魅力である傷つき屈折しながら立ち向かう切実で繊細な心理描写を出せるんだよな」と、相沢作品(こと男主人公の作品)で冴えない学生時代を成仏させてもらい冴えない人生を生き抜く勇気を与えてもらっている身としては「どうしても嫌いになれないんだよなあ……」と鬱ツイートを目にするたびに(勝手に)板ばさみになることを何年も続けていたので、作家の葛藤や苦悩を題材に作品に昇華しただけでなくこれほどの作品になったことで、メタ的な視点も含めて「傑作」だと思いました。
主人公は相沢沙呼ではなく千谷一也であって、相沢先生の本音がそのまま一也のセリフに反映されているわけではないのだろうけれど、読んでいるうちに虚構の叫びやもがきが(twitterを通してみせる)実際の叫びやもがきとオーバーラップして、虚と実の境目が分からなくなることで痛切さがどんどん増していって苦悩と葛藤に飲み込まれていく――であるからこそ、散々「人間が書けていない」とぼやくスペックの高さ(と反比例した口の悪さ)を持つヒロインの小余綾や小説家に憧れて(プロと知らずに)無垢に教えを請うてくる後輩の成瀬さん、大病で入院しているが口やかましくて小余綾の大ファンである妹の雛子といった人物造形やベタなラブコメイベントで過剰に物語を意識させられるつくりも面白い――この傷ついて屈折する過程とそこからの再生が過去作に比べても(連作短編と長編、ミステリか青春小説かといった語り方の差もあるのだろうけれど)丁寧に描かれて引き込まれたので終盤は息をつく暇もないほど魅了されました。作家一人ひとり、というか小説一作一作への向き合い方は様々なわけで、二人が小説に込める想いが絶対的な正義というわけではないのだけれど、だからこそ二人にはこの想いを込める道しかなかったんだと思えて胸が熱くなる。
気になる点も(一也は素性明かしたくないから覆面作家をやっているはずなのにペンネームがほぼ本名ってどういうつもりだ? デビュー作が売れなくてなかなか文庫化されなかったと引け目を感じているけれど三年で文庫化って一般的というか「親本が売れない」って前提なら早いくらいじゃないの? など)それなりにあるけれど、それでもこの作品の輝きは減じない。
デビュー作の「午前零時のサンドリヨン」をはじめ過去作を連想させる要素・場面も多く、これまでの集大成といえる一作。書きそびれましたが小余綾も魅力的で小余綾とのくすぐったい距離感もとてもよかったです。
パワポカラオケ選手権に出てきます
明日はパワポカラオケ選手権です。
全NIPPONパワポカラオケ選手権ダブルス 6月9日(木)
会場:道玄坂ヒミツキチラボ
開場:19時
開演:19時半
料金:前売1800円/当日2100円
今回は初のダブルス開催。関ヶ原セスナでの相方スパムちゃんと一緒に出てきます。
パワポカラオケのダブルス自体はパワポカラオケの練習会で何度か行われているのですが、参加できていないからやったことも見たこともないのでどういうものなのか見当もつかないし、いつもながら具体的なルールは直前まで教えてもらえないし、出場全組とも一癖も二癖もあるひとたちばかりの中場違いて肩身が狭いしで不安も多いですが、それ以上にどんなことが起こるかワクワクしているので思いっきり楽しみます。今回はトーナメント戦なので頑張って一回でも多くホラ話をしたいですし。
まあ、僕のことはどうでもいいんで、明日はスパムちゃんを応援するために道玄坂ヒミツキチラボ(いつもの原宿の会場ではないのでお気を付けください)までお越しください。
5月31日即興テキストコント お題「坂」
生徒:あの、すみません。
教官:なんですか?
生徒:今日の教習って坂道発進なんですよね?
教官:そうですよ。
生徒:でも、ここのコース坂道が全然なくて真っ平らなんですけれど……。
教官:ああ、ここでいいのよここで。これから坂道ができるから。
生徒:はあ?
教官:まあ、できるかどうかはあなた次第だけれどね。
生徒:どういうことですか?
教官:ほら、バラエティ番組でみたことないかな?
滑り台の上でクイズに答えて、間違えるたびに傾斜がきつくなって落っこちたら負けってゲーム。
生徒:はあ……。
教官:そんな感じで、今から出題するクイズに答えてもらってその成績によってこのコースに傾斜ができて坂になるのよ。
生徒:すごいですね!
教官:我が教習所自慢の最新システムだからね。
それで、間違えれば間違えるほど坂道発進難しくなるから気を引き締めるように。
生徒:はい!
教官:見事全問正解したら平坦な道のまままっすぐ進めるぞ!
生徒:いいんですか? 坂道発進の教習にならないじゃないですか……。
教官:まず第一問。1983年4月15日にオープンした日本最大のテーマパークといえばどこ?
生徒:クイズは普通なんですか?
教官:ええ。
生徒:てっきり運転とか道路関係の問題が出るものだと……。
教官:で、答えは?
生徒:え、ディズニーランドですよね……。
教官:正解! 見事第一問目を正解したのでね、カーステレオの音量を少し上げます!
生徒:なんですかその特典は。別にありがたみもないし。
教官:じゃあ、せっかくなんで次は坂にまつわる問題を出してあげようか。
生徒:お願いします。
教官:第二問。天保6年11月15日に……
生徒:あのすみません、まさか正解、坂本龍馬じゃないですよね。
教官:お見事!
生徒:いや、坂のまつわり方! 名前だけかよ!
教官:じゃあ、車のドアを全部半ドアにします!
生徒:メリットなんにもないじゃないですか!
教官:じゃあ、第三問。福岡県出身の元プロレスラーで世界の……
生徒:坂口征二
教官:正解! 第四問。芸名の由来は棋士の阪田三吉
生徒:坂田利夫
教官:正解! 第五問。「デーゲーム」……
生徒:坂上二郎
教官:正解!
生徒:坂のまつわり方! 二問目からずっと一緒!
でもって、俺、さっきから普通にクイズ強いな!
SE:ボン! ボン! ボン!
生徒:なにこれ? なにこれ?
教官:見事三問連続正解したのでエアバックが三回作動しました!
生徒:どんなシステムだよ!
教官:以上で全問終了。見事パーフェクトです!
生徒:しまった! 道が道のままだ!
教官:じゃあ、坂道発進行きましょう。
生徒:こんな教習所嫌だー!
5月28日即興テキストコントお題「ピーナッツバター」
二週間も空いてしまいましたが、お題をもとに即興でテキストコント(今回は漫才になりましたが)を作りました。お題についてこの二週間なにひとつ考えていないのはいつも通りです。
男1:はいどうもよろしくお願いします。
男2:死ぬ直前にさ、どんなピーナッツバターを口にしたい?
男1:挨拶も早々になんなんだよ。ピーナッツバター?
男2:だからさ、今から何十年かしたら男1さんも死ぬわけじゃん。
で、今にも死ぬまさにってときにどんなピーナッツバターを口にしたいのかなって思ってさ。
男1:なんだその状況! 考えたこともないわ!
男2:末期のピーナッツバターとかやらない?
男1:やったことねえよ! どの地方に伝わる風習だよ!
そもそも、なんで死に瀕してるのにピーナッツバター食わなきゃいけないんだよ。
男2:考えてもみてよ。今にも死ぬって時に人間は何を考えるわかる? 「甘いもん食いてえな!」
男1:どこで取った統計だよ。
男2:で、世の中、甘いものって言ったらピーナッツバターじゃん。
男1:だからどこで取った世論調査だよ!
男2:でも、ピーナツバターって言っても種類もあるから、
世間の人はどんなピーナッツバターを口に含みたいのかなって思ってさ。
改めて質問するけれど、男1さんはどんなピーナッツバターを口に含みながら死にたいですか?
男1:ねえよ! 死ぐらいは穏やかに迎えてえよ。
男2:ないって答えは困るんですよね……。その願望があるものとしてお答えいただけます?
男1:強制するんじゃねえよ。そんな風に質問するからアンケート結果が歪むんだろ!
男2:じゃあ、設定を変えましょう。今から一年後に男1さんは捕まるわけじゃないですか。
男1:死に比べてなんだよその具体的な期日は!
男2:で、死刑になるわけですけれど。
男1:さらりと重罪人って設定でロールプレイをさせるんじゃねえよ。
男2:死刑執行前の最後の晩餐で口にしたいのはどんなピーナッツバター?
男1:だからなんでピーナッツバター限定なんだよ!
男2:刑務所暮らしが長いこともあって、最後の晩餐に甘いものを希望する人が多いんですって。
男1:だとしてもピーナッツバターに限定しなくてもいいだろ!
なんだよさっきからわけわかんない質問しやがって!
じゃあ、お前が死ぬ直前に口にしたいのはどんなピーナッツバターなんだよ!
男2:僕甘いもの嫌いなんですよね。
男1:ふざけんな! いい加減にしろ!
インプロの会を開きます
ちょっと先の話になりますが、8月7日にインプロで遊ぶを会を開きます。
インプロをかじり続けて丸五年。知識も経験もファシリテーターと名乗れるほどのものではありませんが、未経験の方にもインプロの楽しさを知っていただける会にするのでよかったらご参加ください。
「インプロで遊ぶ会」8月7日(日)
会場:新宿fu-+ 801号室(新宿fu-のあるビルの8階)
時間:12時半~2時半(予定。おおよそ1時から3時になると思います)
参加費;500円(人数次第で安くなります)
定員:16名
参加希望の方はこの記事のコメント欄かtwitterまでお願いします。
参加者(残り8名)
テラシマシュウジ
青木(仮)
プーチンと白プーチン
虎猫
星野児胡
スパムちゃん
カンダ
山本妄想社
5月15日即興テキストコントお題「ノコギリクワガタ」
近いうちに再開するといってなに十日も開けてるんだよって話ですが、二ヶ月ぶりの即興テキストコント作りです。二ヶ月空けておいてなにが即興だという話ですが、例によって例のごとく考えていないのでどうか平にご容赦を。
(恋愛映画の撮影現場。監督の指示のもと女優と俳優が演技をしている。女優は俳優に背を向け語りだす)
女優:もう、終わりよ。
俳優:なんで、なんでそんな事を言うんですか! 僕は夕夏さんをずっと愛する……
女優:わかってないのね。私は「ひと夏のおもちゃ」でしかいられないの。
俳優:そんなことはない!(女優を後ろから抱き締める)
監督:カット! カット! なにしてるの、全然ダメだよ!
女優:どこがいけなかったんでしょうか?
監督:この男はね、いいところのお坊っちゃんで世間知らず、要するにガキなわけだよ。
そいつが、いくら真剣に「愛」だと言っても現実とかけ離れた遊びでしかなく、
自分は遊びのための「ひと夏のおもちゃ」でしかいられない。そういう悲哀が感じられないんだよ!
女優:はい……。
監督:自分のことを「ひと夏のおもちゃ」でしかないって、真剣に思って芝居してみろ。
女優:はい。
監督:お前が演じるのは田舎町のホステスだと思うな。
「ひと夏のおもちゃ」そう、ノコギリクワガタだ! 自分のことをノコギリクワガタだと思って演技しろ!
女優:はい!? どういうことですか?
監督:ノコギリクワガタいるだろ。広く親しまれて飼われているけれど、
成虫してからの寿命が短くてな、子供にとっては「ひと夏のおもちゃ」でしかないのよ。
女優:はあ……。
監督;だから今からこの映画は田舎町のホステスとエリートサラリーマンの話じゃなくて、
ノコギリクワガタとエリートサラリーマンの話にするぞ!
女優:え、え? ノコギリクワガタの話?
監督:ああ、今からお前はノコギリクワガタの役だ!
女優:え? 役を演じる時の心構えじゃなくて、本当にノコギリクワガタを演じるんですか!
なんなんですか! わけわからないですよ!
俳優:じゃあ、ノコギリクワガタに接するように最後も抱きしめるんじゃなくて、持つように指でつまみますね。
女優:なんで受け入れられるの!
俳優:(指を広げたり閉じたりする)
女優:おかしいでしょこれまでずっと撮影してきたのに……
俳優:(ひざから崩れ落ちる)監督、ダメです! 背中を持つには指の長さが足りません!
女優:何のシミュレーションしてたのよ!
監督:大丈夫だ。それならお前自身を手ということにして演技しろ!
今からこの映画はノコギリクワガタと手の話にするぞ!
女優:いやもう、どんな映画よ! もう、なんとか言ってよ!
俳優:右手ですか、左手ですか?
女優:どっちでもいいわよ! なんでこの状況で演技を固める気になれるのよ!
監督:ガキの頃ノコギリクワガタをつかむ方って教わった手だよ!
俳優:右手ですね!
女優:どんな幼少教育受けてきたのよ……。
監督:よし、じゃあ確認する。
今から撮るシーンはノコギリクワガタが去ろうとするから、手がそれを引き留めるために後ろから抱きしめる。
女優:ああ、でも画的にはさっきと一緒だ。
監督:セリフも確認するな。まず、ノコギリクワガタ。「クワッ! クワクワ! クワックワッ!」
女優:いや、なんですかそのセリフ!
監督;ノコギリクワガタだからノコギリクワガタらしくするんだよ!
女優:「らしく」の定義がおかしいけれど、それ以前にこれじゃ芝居にならないですよ!
クワクワ言ってるだけで、悲哀とか、感情とかこめられるわけないじゃないですか!
監督:……役者っていうのはな、セリフがなくても表情や目線、全身を使って役の心を表現するもんなんだよ。
セリフがなければ演技ができないなんて甘えるんじゃねえ!
女優:……なんで正論が言えるのにこんな演技プラン立てちゃうんですか?
監督:「クワッ!」ってセリフの中に「うわあ! おいしそうな樹液だ! いただきまーす!」って気持ちを込めるんだよ!
女優:セリフの意味変えないで下さいよ! 完全にノコギリクワガタの話じゃないですか! 恋はどうしたんですか! 恋は!
俳優:僕は手の役だから、手話で伝えればいいですかね?
監督:いや、お前自身が右手の役だから手話をすると入れ子細工みたいでわかりにくくなる。だから全身を使って手話を表現しろ。
俳優:なるほど……任せてください! ダンスには自信があるんだ!
女優:なんで建設的な話ができるのよ……。
監督、無理です。ノコギリクワガタの気持ちなんて演じられません!
監督:そうか……。それならまずはノコギリクワガタになりきってもらう必要があるな。
よし、スタニスラフスキーシステムでいくか。お前これから相撲を取れ!
女優:はい?
監督:ノコギリクワガタって言ったらカブトムシと相撲をとるもんだろ!
そうしたらノコギリクワガタの気持ちが理解できるだろ。
で、カブトムシの役は……(俳優を見る)やってくれるな?
俳優:カブ!
女優:あなたたしか無名塾出身よね? なんで付き合えるのよ流転っぷりに!
監督;よし、じゃあ相撲とるぞ。おーし! カメラも回しておけ! カメラ!
女優:別に撮らなくていいじゃないですか。
監督:その方が気分出るだろ! はい、はっけよーい……のこった!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:もう、なんなのよ!(上手投げを決める)
監督:え?
俳優:え?
女優:ええ?
監督:なんだ今の! ちょっともう一回やって!
女優:ええ! そんな無理です!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:やめてください!(下手投げを決める)
監督:おお! すごい! もう一回!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:いやあ!(内無双を決める)
監督:うおおお! もう一回!
(三人この時の状態のまま制止。女優のモノローグ後暗転)女優:結局、クランクアップの予定日まで相撲を取り続け、恋愛映画の撮影はうやむやになった。
でも、この時に撮影された映像をもとに、女相撲の横綱を主人公にしたアクション映画が公開された。
相手役の俳優さんは今ではカブトムシ専門の俳優として億単位の金を稼いでいるらしい。
ライブに出てきます
サボりにサボって事後報告が重なってすみません。
まずは先日のゲレロンお越しいただきありがとうございました。
それから今月1日の文学フリマに参加してきました。また秋の文学フリマでも架空のコンビのテキスト漫才とテキストコント集をまとめて参加するつもりなのでその時はよろしくお願いします。
さて、明日はピンでライブに出てきます。
ぶちぬき魂!プレーオフ5月5日(木)
会場:新宿バッシュ!!
開場:14時45分
開演:15時
料金:500円
それからかなり先の話になりますが、来年1月31日に新宿ハイジアV-1で単独ライブをやります。どんなことをやるのか全く決まっていませんが、誰に見られてもはずかしくないものになるよう準備はしておくので頭の片隅に入れていただけたらありがたいです。
あと、最初の一本書いてから手をつけていないテキストコント作りも近いうちに再開させるのでお待ちください。