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円居挽「クローバー・リーフをもう一杯 今宵、謎解きバー「三号館」へ」

 ルヴォワールシリーズ完結後初となる単行本で初の短編集。
 なんとも洒脱というか雅やかな印象。長編と短編の差を考えても謎と真相はルヴォワールシリーズの絢爛さが嘘かのような軽さで、下手をすれば薄いと思われかねないですが、ミステリ然とした過剰さを抑えて青春・恋愛小説としての魅力を立るのに成功しているから、軽いことがマイナスにならず最初に書いたように洒脱や雅やかという印象になりました。タイトルとラストの絡め方も洒落ているし、ミステリ部分では重要な情報の隠し方と明かし方も好きです。
 でも、正直なところ途中までは「端々で個性を主張しているとはいえ、時流に合わせた作風に挑戦した感じで個人的に円居作品に求めるものとは違うかな。これはこれで魅力もあって嫌いじゃないけれど」ぐらいにしか思っていなかったですが、後半の二編でちょっと印象が変わりました。
 それまで着実に距離を縮めてきた想い人の青河さんと一定の距離を保ったまま曰くありげに登場していた灰原さんの出番がほとんどなく、扱われる謎も事件性が高くいかにも円居作品らしい展開になったりで青春・恋愛小説からミステリに軸足が移っていて、今後はどういうバランスで話を進めていくのか気になって読み終わるころにはすっかり続刊が楽しみに。……もしかしたら、単に二人の進展を一旦ストップさせたかっただけかもしれないですけれどね。
 個人的に好きなのはミステリ濃度(なんだそれ?)の高い後半の二編ですが、前半の穏やかでくすぐったくなるような青春・恋愛テイストも好きなのでシリーズを通じて両者を融合させていってもらえればいいな。
 外連味と過剰さあふれるルヴォワールに比べるととっつきやすくて書店でもプッシュしやすいだろうから、この小説が円居作品との出会いになる人も多いのだろうけれど、やはりルヴォワールを読んだ後に楽しんでもらいたいなあ……と思うのはルヴォワールファンのわがままか。