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秀でよ凡才

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5月15日即興テキストコントお題「ノコギリクワガタ」

テキストコント

 近いうちに再開するといってなに十日も開けてるんだよって話ですが、二ヶ月ぶりの即興テキストコント作りです。二ヶ月空けておいてなにが即興だという話ですが、例によって例のごとく考えていないのでどうか平にご容赦を。

(恋愛映画の撮影現場。監督の指示のもと女優と俳優が演技をしている。女優は俳優に背を向け語りだす)
女優:もう、終わりよ。
俳優:なんで、なんでそんな事を言うんですか! 僕は夕夏さんをずっと愛する…… 
女優:わかってないのね。私は「ひと夏のおもちゃ」でしかいられないの。
俳優:そんなことはない!(女優を後ろから抱き締める)
監督:カット! カット! なにしてるの、全然ダメだよ!
女優:どこがいけなかったんでしょうか?
監督:この男はね、いいところのお坊っちゃんで世間知らず、要するにガキなわけだよ。
   そいつが、いくら真剣に「愛」だと言っても現実とかけ離れた遊びでしかなく、
   自分は遊びのための「ひと夏のおもちゃ」でしかいられない。そういう悲哀が感じられないんだよ!
女優:はい……。
監督:自分のことを「ひと夏のおもちゃ」でしかないって、真剣に思って芝居してみろ。
女優:はい。
監督:お前が演じるのは田舎町のホステスだと思うな。
   「ひと夏のおもちゃ」そう、ノコギリクワガタだ! 自分のことをノコギリクワガタだと思って演技しろ!
女優:はい!? どういうことですか?
監督:ノコギリクワガタいるだろ。広く親しまれて飼われているけれど、
   成虫してからの寿命が短くてな、子供にとっては「ひと夏のおもちゃ」でしかないのよ。
女優:はあ……。
監督;だから今からこの映画は田舎町のホステスとエリートサラリーマンの話じゃなくて、
   ノコギリクワガタとエリートサラリーマンの話にするぞ!
女優:え、え? ノコギリクワガタの話?
監督:ああ、今からお前はノコギリクワガタの役だ!
女優:え? 役を演じる時の心構えじゃなくて、本当にノコギリクワガタを演じるんですか!
   なんなんですか! わけわからないですよ!
俳優:じゃあ、ノコギリクワガタに接するように最後も抱きしめるんじゃなくて、持つように指でつまみますね。
女優:なんで受け入れられるの!
俳優:(指を広げたり閉じたりする)
女優:おかしいでしょこれまでずっと撮影してきたのに……
俳優:(ひざから崩れ落ちる)監督、ダメです! 背中を持つには指の長さが足りません!
女優:何のシミュレーションしてたのよ!
監督:大丈夫だ。それならお前自身を手ということにして演技しろ!
   今からこの映画はノコギリクワガタと手の話にするぞ!
女優:いやもう、どんな映画よ! もう、なんとか言ってよ!
俳優:右手ですか、左手ですか?
女優:どっちでもいいわよ! なんでこの状況で演技を固める気になれるのよ!
監督:ガキの頃ノコギリクワガタをつかむ方って教わった手だよ!
俳優:右手ですね!
女優:どんな幼少教育受けてきたのよ……。
監督:よし、じゃあ確認する。
   今から撮るシーンはノコギリクワガタが去ろうとするから、手がそれを引き留めるために後ろから抱きしめる。
女優:ああ、でも画的にはさっきと一緒だ。
監督:セリフも確認するな。まず、ノコギリクワガタ。「クワッ! クワクワ! クワックワッ!」
女優:いや、なんですかそのセリフ!
監督;ノコギリクワガタだからノコギリクワガタらしくするんだよ!
女優:「らしく」の定義がおかしいけれど、それ以前にこれじゃ芝居にならないですよ!
   クワクワ言ってるだけで、悲哀とか、感情とかこめられるわけないじゃないですか!
監督:……役者っていうのはな、セリフがなくても表情や目線、全身を使って役の心を表現するもんなんだよ。
   セリフがなければ演技ができないなんて甘えるんじゃねえ!
女優:……なんで正論が言えるのにこんな演技プラン立てちゃうんですか?
監督:「クワッ!」ってセリフの中に「うわあ! おいしそうな樹液だ! いただきまーす!」って気持ちを込めるんだよ!
女優:セリフの意味変えないで下さいよ! 完全にノコギリクワガタの話じゃないですか! 恋はどうしたんですか! 恋は!
俳優:僕は手の役だから、手話で伝えればいいですかね?
監督:いや、お前自身が右手の役だから手話をすると入れ子細工みたいでわかりにくくなる。だから全身を使って手話を表現しろ。
俳優:なるほど……任せてください! ダンスには自信があるんだ!
女優:なんで建設的な話ができるのよ……。
   監督、無理です。ノコギリクワガタの気持ちなんて演じられません!
監督:そうか……。それならまずはノコギリクワガタになりきってもらう必要があるな。
   よし、スタニスラフスキーシステムでいくか。お前これから相撲を取れ!
女優:はい?
監督:ノコギリクワガタって言ったらカブトムシと相撲をとるもんだろ!
   そうしたらノコギリクワガタの気持ちが理解できるだろ。
   で、カブトムシの役は……(俳優を見る)やってくれるな?
俳優:カブ!
女優:あなたたしか無名塾出身よね? なんで付き合えるのよ流転っぷりに!
監督;よし、じゃあ相撲とるぞ。おーし! カメラも回しておけ! カメラ!
女優:別に撮らなくていいじゃないですか。
監督:その方が気分出るだろ! はい、はっけよーい……のこった!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:もう、なんなのよ!(上手投げを決める)
監督:え?
俳優:え?
女優:ええ?
監督:なんだ今の! ちょっともう一回やって!
女優:ええ! そんな無理です!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:やめてください!(下手投げを決める)
監督:おお! すごい! もう一回!
俳優:カブ! カブ!(女優に組みつく)
女優:いやあ!(内無双を決める)
監督:うおおお! もう一回!
(三人この時の状態のまま制止。女優のモノローグ後暗転)

女優:結局、クランクアップの予定日まで相撲を取り続け、恋愛映画の撮影はうやむやになった。
   でも、この時に撮影された映像をもとに、女相撲横綱を主人公にしたアクション映画が公開された。
   相手役の俳優さんは今ではカブトムシ専門の俳優として億単位の金を稼いでいるらしい。