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陸秋槎「雪が白い、かつそのときに限り」

雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ)

雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ)

 中国南部にある高校で学生寮内でのいじめによる生徒の退寮騒動をきっかけに五年前に起 こった女子生徒が足跡のない雪の中で不審死した事件の噂が広まる。親友であり寮委員を生徒会で勤める顧千千の頼みにより生徒会 長の馮露葵は図書館司書の姚漱寒とともに五年前の関係者に調査を はじめるーー。

 後漢時代を舞台にしたデビュー作の「元年春之祭」からガラリと変わって2010年代初頭を舞台にした学園ミステリとはいえ、前作同様に設定や雰囲気、謎解きでの緻密なロジックに大胆なサプライズなど随所に新本格らしい要素が詰まった作品。これまた前作同様にいかにもな懐かしさ(と新本格が中国で伝わっている興味)を楽しむだけで終わらないで謎解きが終わったあとに描かれる物語の魅力に打ちのめさ れました。

 ネタを割ることになるので具体的なことは言えないし、そもそも感想の言語化を諦めている節もあるので伝わらないかもしれませんが、なにが好きって読んだ人の大半が納得しづらいであろうある部分の異様さ。正直、本格ミステリとしては弱点といってよく、そこで評価を下げる人がいてもしょうがないと思うし、 僕もそうなりかけたのですが、読み進めると本格ミステリとしての弱さが青春ミステリとしてこれ以上ない強み になっていて打ちのめされた。そこで描かれる物語はこういう展開や読後感を求めているから青春ミステリを読んでいると思わされるツボを直撃してくるもので、それでいて「こういう」 なんて類型でくくりきれない独自の魅力があって大好きです。

 昔から青春ミステリが大好きだけれどここ何年かは加齢のせいか昔ほど心揺さぶられることも少なくなってきたのですが、久々に没入しました。個人的に浮いているように感じられたいくつかの点が読み終わると魅了された物語を描くのにすべて必要だったわかったこともあって、ひたすら平伏しているし、読んでからしばらく経ちますがまだ余韻を引きずって思い返す度に「あー! もう! あー! もう!」と心の中でのたうち回っている。

 そんなに数は読んでないですが、個人的に2019年に読んだ中で一番好きな小説です。