秀でよ凡才

出でよ天才と言われても出ていけない男

   今後の予定




   チケットの予約・取り置き希望はsugitamasataka@gmail.comまで

文学フリマのお知らせ

 明日、11月11日に流通センターで行われる文学フリマにて第二展示場2階「し-67ブース」で「机上のエブリデイ・マジック完全版」というタイトルのテキストコント集を700円で頒布します。
 2020年に頒布した旧版に新作コント二作を加え、数え上げればキリがないほどあった誤字・脱字・セリフの抜けを極力修正したパワーアップさせました。極力なんてつけていることからも分かる通り、すでに見落としたミスを発見して偽りのある看板を作ってしまい前日にして激しく自己嫌悪に陥っておりますが、コントに関してはどの程度かはともかく面白いものを書いた自負はあるのでよろしければお立ち寄りください。
 以下、サンプルとして漫才「服屋の店員」の全文と残りのコントをダイジェスト風に公開します。

槍沢:はいどうも言霊連盟です。単独ライブ頑張っていきましょうね!
栃城:ちょっと質問があるんですけれど、服って着たことあります?
槍沢:はい?
栃城:服を着たことはありますか?
槍沢:開始早々なにを尋ねられているんですか僕は?
栃城:ありますか?
槍沢:ありますよ。見ればわかるでしょ! 今、僕のこと全裸に見えてます?
栃城:槍沢さんが今着ているものを服と認識していないかもしれないじゃないですか。
槍沢:どんなかもしれないを心配されているんだよ。
栃城:じゃあ、次の質問だけれど服を買ったことってありますか?
槍沢:だからどんな質問ですか?
栃城:最悪、万引きしたことがあるでもいいんですけれど。
槍沢:僕のことなんだと思っているんですか? 服に限らず万引きせずに買いますよ!
栃城:それは貨幣経済で?
槍沢:貨幣経済でだよ!
栃城:ていうことはこの世界には服を売っている服屋が存在していることも知っているんですね!
槍沢:さっきからなんなんですかこの回りくどさ! 知っていますよ服屋ぐらい!店員がいっぱい話しかけてくるところですよ!
栃城:うわ、話が早い! その服屋の店員が話しかけることで相談があるんですよ!
槍沢:そうだったんですか? じゃあさっさと言ってくださいよ。まどろっこしい。
栃城:これでかなり質問を省けたな。
槍沢:まだまだ経由地あったんですか? じゃあ、次は「そこには店員と呼ばれる人がいて……」とか?
栃城:「この世界には人間って生き物がいるんですけれど知ってます?」
槍沢:そんなところから! 一番根源的な質問じゃないですか!
   で、なんです? 服屋の店員がどうかしたんですか?
栃城:さっきも言ったけれど、服屋の店員って話しかけるでしょ。あれが苦手でね。
槍沢:ああ、わかりますわかります。
栃城:客としてはじっくり見たかったりそもそも買うか決めていないのに話しかけられても困るでしょ?
槍沢:そうなんですよね。
栃城:それにこっちも人見知りするし服のこと質問されてもわからないから答えようがないんだよね。
槍沢:わかるわかる。
栃城:でも、こっちとしても売り上げのためにお客さんに話しかけないといけないし、店長からいろいろ言われて大変なんだよね。
槍沢:ちょっと待って……。これ店員目線の話なの?
栃城:ええ。
槍沢:まぎらわしい言い方しないでくださいよ。え、栃城さん服屋さんで働いているんですか?
栃城:最近アルバイトを始めましてね。でも、なかなかうまく話しかけられなくて困っているんですよ。
槍沢:じゃあ、スッと言ってくださいよ。こんなに時間かけなくてよかったでしょ。
栃城:接客に慣れていないせいか話しかけたら百パーセント怒鳴られるんですよ。
槍沢:どんな客を相手にしてるんですか? 治安悪すぎでしょ。
栃城:怒鳴ったら逃げるように帰られてばかりで困ってるんですよ。
槍沢:辞めたら? 向いてないよその仕事。
栃城:そういうわけにもいかないんですよ。
   この半年間彼女のヒモやってきたけれど「いいかげん働いてよ」ってしつこくてさ
   それで彼女の知り合いが店長やっているお店で働かせてもらってるんですよ。
槍沢:とりあえずあなたがクズなのは分かりました。
栃城:ちゃんと接客できるように会話術の本も何冊か買って勉強したんですけれどね。
槍沢:まず服の勉強しましょうよ。服の質問されても分からないんでしょ?
   怒鳴られることの陰に隠れて店員としてあるまじき状況なわけでしょ?
栃城:で、今日は勉強の成果を見せたいんで槍沢さんに手伝ってほしいんですよ。
槍沢:じゃあ僕がお客さんやるんでちゃんと接客してくださいね。
栃城:お願いします。
槍沢:「新しい服を買いに来たけれどたくさんあって迷うな……」
栃城:「なにかお探しでしょうか?」
槍沢:「オシャレな服が欲しいんですけれどなにかあります?」
栃城:「オシャレ。と言いますと具体的にどのような服がオシャレだとお考えですか?」
槍沢:「具体的……。センスがいい服ですかね?」
栃城:「センスとは? センスの意味するものおよびそれがいいとされる服はどのようなものなのか定義していただけますか?」
槍沢:「定義って言われても……。こう、なんか女の子にモテる服がいいかな」
栃城:「ですから、その女の子とは? 女の子一人一人によって趣味嗜好は様々です。
   ガーリーなファッションが好きな人、下北のライブハウスや高円寺の古着屋が好きなサブカル女子、クラブに通うギャルとでは好まれる洋服も異なります
   ひとまず年代から絞りましょう。お客様が好かれたいと思う女性の年齢を教えてください」
槍沢:「えーと……二十歳から三十歳ぐらいかな」
栃城:「幅が広すぎますね。大人に足を踏み入れたばかりで自由を謳歌している女子大生と仕事を頑張ってきてそろそろ落ち着きたいと思っているアラサーのOLではおのずと好まれる洋服も……」
槍沢:ちょっと待てください! なんですかこの接客は! そりゃ怒鳴られますよ!
栃城:嘘!? ここまで怒鳴られてないからすごい順調かと……。
槍沢:相談に乗ってる手前、かなり気長に付き合いましたからね。もっと早く怒鳴るポイントありましたよ。
栃城:ああ、やっぱりそうなんだ。いつも第一声で怒鳴られるんだよね。
槍沢:本当にどんな客を相手にしてるんですか。で、この接客はなんですか?
栃城:「現役弁護士が教える絶対に言い負けない会話術」って本を参考にしたんだよ。
槍沢:参考文献間違ってません? 絶対に言い負けない会話術?
栃城:その本によると、議論の前には相手と言葉の意味をすり合わせる必要があって、
   すり合わせるときに相手が曖昧に使っている言葉があったら定義の説明を求めてボ
ロが出たら徹底的に叩くって書いてあったんだよ。
槍沢:接客をなんだと思ってるんですか! なんで客相手に論戦吹っ掛けるの? 嫌でしょそんな朝生みたい服屋。
栃城:別に田原総一朗は来店しないよ。
槍沢:田原総一朗がいるからって朝生みたいだとは思わないよ。うわ、プライベートの田原総一朗だと思うだけだよ。とにかくこんな接客じゃダメですよ
栃城:ダメですか……。自然に使えるよう日ごろから取り入れているんだけれどね。
槍沢:……あれ? もしかしてさっきやたらと質問攻めしていたのって?
栃城:本を参考に定義の確認をしました。
槍沢:真に受けるにしても限度ってものがあるでしょ。その弁護士も服を知ってるかまでは確認しないでしょ。
   じゃあ、おかしいところあったら指摘するから一人で演じてみてくださいよ。
栃城:わかりました。
槍沢:あと、さっきの弁護士の本は絶対に参考にしないで。他にも買ってあるならそれを参考にしてくださいよ。
栃城:「いらっしゃいませ。犬っているよね」
槍沢:ん?
栃城:「よく、犬は人類最古のパートナーって言うけれどさ、
   同じ地球に生きている以上、そこに優劣をつけたらいけないよね。
   犬は人と全く同じように接して、同じように扱うべきだと僕は考えているね。
   ……ねえ、キスしてもいいかい?」
槍沢:なんの話だ! 犬云々の長広舌も口説き文句も! 接客どこ行ったんですか!
栃城:だって本にこう喋れって書いてあるんだよ!
槍沢:じゃあ、出典元に問題ありだよ! 今度はなにを参考にしたんですか!?
栃城:「続・超人気キャバ嬢のオトし方」
槍沢:なにを参考にしてるんだよという以前に、なにを買ってるんですかなにを!
栃城:半年ぶりの待望の新刊なんだよ。
槍沢:知らないですよ前がいつ出たとか待ち望まれていたとかは。
   というか、参考にするのは大目に見るとしてどこを参考にしたんですか?
栃城:「キャバ嬢は犬を飼っているから犬を誉めれば絶対オチる」って教えだよ。
槍沢:雑なアドバイスだな! アドバイスっていうかただの偏見じゃないですか。
栃城:本に載ってる例文全部読み上げてみたんだけれど、どうかな?
槍沢:なにキャバ嬢のオトし方を接客にベタ移植してるんだよ。
   ちょっとは手を加えてくださいよ。例文そのまま使って褒められるの井上ひさしの小説ぐらいですよ。
栃城:そうだよな。これだとキャバ嬢がオチても接客は上手くいかないもんな。
槍沢:キャバ嬢もオチないよ。犬への博愛主義語られてキスするキャバ嬢いないでしょ。
栃城:でも、基本的なテクニックなんだよ。前作にも同じこと書いてあったんだから。
槍沢:使いまわしあるんですか。
栃城:ここだけじゃなくて九割がた前作と同じ内容だったよ。
槍沢:栃城さんが無駄金使わされただけじゃないですか。
栃城:でも、このアドバイスは正しいんだよ。キャバ嬢はみんな犬を飼っているから……
槍沢:そこからして偏見なんだよ! 小型犬で寂しさを癒してそうって偏見なんですよ。
栃城:この本によるとキャバ嬢の犬を飼っている率は三百パーセントなんだよ!
槍沢:なにその頭の悪そうな統計?
栃城:キャバ嬢は一人平均三頭の犬を飼うから三百パーセントになるんだよ。
槍沢:昔の代アニか! 経営陣が替わる前の代アニのCMか!
   今のうちに確認しておくけれど他にどんな本買ったの?
栃城:「メンタルを鍛える心の対話」
槍沢:自己啓発本? 内面との対話であって対人は想定してないでしょ。
栃城:「みんなが楽しい! おもしろ雑学三百連発」
槍沢:会話術……? まあ、話のタネにはなるだろうけれど。
栃城:「筋肉を作る最高の食事」
槍沢:いよいよ会話術関係ない! なんですこのラインナップ。
栃城:「絶対トクする財テク裏ワザ大公開」
槍沢:全部コンビニで揃えたでしょ。全部コンビニに置いてあるペイパーバックでしょ。
栃城:あと「島耕作」の総集編。
槍沢:コンビニコミックスね。
栃城:ベッドシーンだけ集めたやつ。
槍沢:そんなのあるの!? そこだけ読みたいニーズがあるんだ。
栃城:あと「ビッチが大集合」とか書いてあるムック本。
槍沢:なに買ってんだよ!
栃城:参考になるかと思って!
槍沢:そんなもんが参考になる接客業があってたまるか。キャバ嬢といい島耕作といい栃城さんゲスな本買いすぎでしょ。
栃城:でも、いきなりプッシーがどうとか書いてあったからすぐに読むのやめたけどね。
槍沢:読もうが読むまいがそんなものに銭出した時点で軽蔑してますからね。
栃城:だからこれは参考にならないんだけれどね。
槍沢:別に熟読したところで得るものはなかったですけれどね。
栃城:他の本から学んだ知識で接客の練習するから見ていてくださいよ。
槍沢:あれ? 結局、会話術の本買ってないですよね? 大丈夫ですか?
栃城:「いらっしゃいませ。服って着たことありますか?」
槍沢:なんでここにきて漫才の最初に戻るの? みんな服着ているから確認しなくていいよ!
栃城:裸で来店するお客さんだっているかもしれないから確認しないと。
槍沢:どんな可能性を考慮してるんですか。
栃城:大体、半分弱は裸で来るよ。
槍沢:そんなわけないでしょ。なにを根拠にはじき出した推測ですか。
栃城:それに島耕作だってずっと裸だしさ!
槍沢:ベッドシーンだからだよ! そこしか読んでないからあらぬ誤解を植え付けられるんだよ!
栃城:仮に服を着ていたとしても服だと認識していない可能性だってあるわけだから質問はしていいでしょ。
槍沢:捨てきっていいよそんな可能性! その可能性のためにどれだけ無駄なやり取りするつもりなんですか。
栃城:ダメだよ! 「どんなにわずかでも可能性がある限りあきらめてはいけない」って心の対話に書いてあったんだから!
槍沢:どこに学んだ結果なんだよ! 教えの捉え方間違ってますよ。
   いいですよ、もう。みんな服着てるからそんな質問する機会ないし。ちゃんと接客の練習してくださいよ。
栃城:「いらっしゃいませ。サランラップのサランって、開発者二人の妻の名前、サラとアンから取っているんですよ」
槍沢:唐突に雑学を挟むな!
栃城:「雑学言いますね。あさりって人が漁って獲るからあさりって名前になったんですよ」
槍沢:断ればいいってもんじゃないんですよ。服の話をしてくださいよ!
栃城:「学ランのランってなんのことか知ってます?」
槍沢:そういうことじゃない!
栃城:「江戸時代は洋服のことをオランダの服ってことで蘭服って呼んでいて、学生用の服だから学ラン」
槍沢:ずっと「へえ、そうなんだ」で終わりですよ。服屋の店員さんなんだから服を勧めてくださいよ。
栃城:「サランラップのサランって、開発者二人の妻の名前、サラとアンから取っているんですよ」
槍沢:なんで雑学のリピート放送してるんですか。
栃城:「サランラップといえばシースルーの服ですよね。シースルーの服ですとレインコートがございまして……」
槍沢:セールストーク下手だな!
   サランラップといえばシースルーの服? そんな連想ゲーム成立しないよ!
   でもって、シースルーの服で勧めるのがレインコート!?
栃城:店にある服で一番シースルーなのがレインコートだから。
槍沢:じゃあ、シースルーをマクラにするの諦めなよ。
   とりあえず雑学の本参考にするのやめてください。
栃城:みんなが楽しいのに!? まだ二百九十七連発できるのに!?
槍沢:みんなが楽しめない連発の仕方方なんですよ。
   いきなりサランラップの雑学を話されてもお客さん困るでしょ。
栃城:そこは自然にサランラップの話を切り出せるタイミングを見計らうよ。
槍沢:訪れます? そんな瞬間? とにかく雑学の本はもう使わないでくださいね。
栃城:「いらっしゃいませ。島耕作で一番いい女って誰だと思います?」
槍沢:だからって島耕作を掘り下げるなよ。
栃城:「島耕作って野球だとどこのポジション守ってると思います?」
槍沢:もしもで島を弄ぶなよ。なんなんですこの話題。
栃城:「土佐丸高校との対戦が一番燃えましたよね」
槍沢:あなた、「ドカベン」も買ったでしょ! コンビニコミックスの!
栃城:買ってないよ!
槍沢:じゃあ、なんで土佐丸高校なんて単語が出てくるんですか!
栃城:さっき言ったじゃん! 犬誉めたらオチるって!
槍沢:キャバ嬢のオトし方かよ! 別に土佐丸高校ほめても犬誉めたことにはならないからね。
   栃城さん、全然できてないですよ。これじゃいつまで経ってもお客さんに怒鳴られて終わりですよ。
栃城:そっか……。じゃあ、怒鳴られたときの対処法練習するんで見てもらえます?
槍沢:今、怒鳴られないように練習しているんじゃないんですか?
栃城:でも、やっておいた方がいいんだよ。
   さっき「どんなにわずかでも可能性がある限りあきらめてはいけない」ってあったけれど、それと同じで「どんなにわずかでも可能性がある限り」対策は考えた方がいいんだって。
槍沢:怒鳴られるのはかなりの高確率だと思いますけれどね。
   まあ、とりあえずやってみてくださいよ。
栃城:「いらっしゃいませ。服って着たことあります?」
槍沢:それは確認するんですね。
栃城:「うわあ! 怒鳴られた! ……なんでこんな目に。ありがとうございます! ひどいお客さんだなあ。ありがとうございます!」
槍沢:……なんですかこれは?
栃城:「辛い」とか「許せない」みたいなネガティブなことを考えたらずっと引きずって落ち込んじゃううんで、
   最後に「ありがとうございます」ってつけると、気持ちを切り替えられるって「心の対話」に書いてあったんですよ。
槍沢:だから内に秘めておくものなんだよ!最後はひどいお客さんだって言っちゃってるし! 別の方法ないんですか?
栃城:「いらっしゃいませ。服って着たことあります?
   うわあ! 怒鳴られた! (ポケットを探って取り出すマイム)ささみ食べますか?」
槍沢:栃城さん、せめて理解しようと試みるとっかかりはくださいよ。
   どういう思考回路なら怒鳴られたあとに鶏肉をレコメンドできるんですか?
栃城:お客さんの機嫌を取るためのプレゼントですよ。
槍沢:取れるわけないでしょ。
栃城:心の対話に書いてあったんですよ。
   理不尽なことをされても、相手に事情があったんじゃないかと考え理解することで寛容になれるし対処方法も考えられるって。
   で、相手の立場になって考えたら、お腹が空いて機嫌が悪いんじゃないかと。
槍沢:そんな単純な事情ですかね? だとしても、ささみじゃなくたっていいでしょ。
栃城:ささみは質のいい筋肉を作るのに必要だからですよ。
槍沢:そういや「筋肉のための食事」の本も買ってましたね!
栃城:ささみなら絶対喜んでくますよ。
槍沢:絶大な信頼おいているところ悪いけれど、怒鳴られたあとに裸のささみ渡しても効果もないでしょ。
栃城:裸じゃないよ! ちゃんとラップに包むよ!
槍沢:どっちでもいいよ! 包んでいるかどうかが論点じゃないから!
栃城:で、その流れで「このささみを包んでいるのはサランラップですが、サランラップのサランというのは開発者の……」
槍沢:行けるか! サランラップの話ができるタイミング見計らってるんですよね? そのうえでこれ!?
栃城:たしかに難しいよね。この前、一回試したんだけれどさ。
槍沢:すでに実戦投入済みなんですね。
栃城:ささみを食べられたあとに怒鳴られて帰られちゃったよ。
槍沢:メインの客層蛮族ですか? 怒鳴りのささみサンドって怖すぎでしょ。
栃城:渡したのがささみじゃなかったら上手くいったのかな。なにかいいアイディアありませんか?
槍沢:あるわけないでしょ。怒鳴られたお客さんが相手じゃなに渡しても無駄ですよ。
栃城:そんなこと言わないで、なんでもいいから言ってみてよ。
槍沢:じゃあ、カルシウムが足りないってことで牛乳でよくないですか。
栃城:ああ! 牛乳! なるほどね!
槍沢:この投げやりのどこに感銘受たんですか。
栃城:いいね、いいね! 乳製品は考えなかったな。他にもなにかない?
槍沢:だからないって! さっきも言ったけれどその状況からの逆転は無理だから。
栃城:それでもいいから、なにか言ってみてよ!
槍沢:温度差感じてくださいよ。……じゃあ、チョコでも渡せばいいでしょ。
栃城:……いやいやいや、チョコはない!
槍沢:なんなんだよ! 牛乳は好感触でチョコは嘲弄って、このゲームの勝利条件はなんなんだよ!
栃城:それぐらいは常識ですって。
槍沢:なんでささみ渡してる人に常識解かれないといけないんですか。
   それより接客の練習ちゃんとしましょうよ! あと、「財テクの本」全く読んでないでしょ! 一回も話題に出てきてない!
栃城:読んだけれどよくわからなくてさ。お金の管理は彼女に任せればいいかなって読まなくなっちゃった。
槍沢:せっかく働き始めたんだからちゃんと考えましょうよ。
   栃城さん、一回自分から話しかけるの諦めましょう。お客さんに質問されたときちゃんと答えられるかってところから始めましょう。
栃城:「これの大きいサイズありますか?」とかですか?
槍沢:まあ、そういう初歩的なところでもいいですよ。
栃城:なら大丈夫ですよ。サイズが小型・中型・大型のどれか確認して在庫調べればいいだけですから。
槍沢:S・M・Lでいいでしょ! 小型大型って車か犬じゃないんだから……。
   またキャバ嬢のオトし方! 犬と人間を対等に扱うってあったけれど、なんで人間を犬に寄せてるんですか!
栃城:別にそういうわけじゃ……
槍沢:とりあえずそこは言い回しだけ変えてくれれば大丈夫ですよ。
   もうちょっと具体的に「この服に合うアクセサリーあります?」って質問されたらどう答えますか?
栃城:アクセサリーか……。首輪でも勧めますね。
槍沢:チョーカーって言ってよ! 首輪って変なプレイにしか聴こえないよ!
栃城:変なプレイじゃないよ! リードをつけて散歩するための首輪だよ!
槍沢:変なプレイじゃねえかよ! 首輪つけて散歩って犬じゃないんだから!
栃城:犬だよ。
槍沢:…………犬?
栃城:僕が働いているのは犬の服の専門店なんですよ!
槍沢:はあ!? なにそれ!?
栃城:セーターとかTシャツとか着ている犬いるでしょ? ああいう服を売っているの!
槍沢:最初に言えよ! 前提全部変わるぞ! 犬が相手なら相手が犬らしく語れよ!
栃城:でも、犬と人間は対等に扱うべきだって本に……
槍沢:どれだけその言葉から影響受けてるんですか! というか、なんで犬だって言わなかったんですか!
栃城:ほら! やっぱり参考になったじゃないですか!
槍沢:……なにがですか?
栃城:「まず言葉の意味をすり合わせて使い方の曖昧な言葉は定義を訊け」っていう弁護士の教えだよ!
槍沢:服屋の定義が曖昧だなんて考えるか! とにかく、一回ちゃんと説明して。
栃城:じゃあ、最初から説明すると来店するお客様の半分弱は裸で来てるんですよ。
槍沢:この裸で来る客って……?
栃城:飼い主に連れられた犬のお客様ですよ。
槍沢:そういうことかよ! そりゃ犬なら裸だろうよ!
栃城:で、そういうお客様には服を着たことがあるか質問するのよ。
   犬種によっては服を着ることで体温の調節が上手くできなくなったりストレスになるお客様もいるからね。
槍沢:ちゃんとした理由での質問だったんですか。
栃城:でも、質問の仕方が悪いのか「ワンワンワン!」って怒鳴られてさ。
槍沢:犬に質問してるのかよ! それ吠えられてるんだよ!
栃城:しょうがないから飼い主のお客様に質問しようとしたら逃げるように帰られてさ。
槍沢:逃げてるんだよ! いきなり犬に質問する店員が怖くて逃げてるんだよ!
栃城:で、この前、機嫌を取るために怒鳴ったお客さんにささみを出したんだけれどさ。
槍沢:犬相手だったからかよ! 犬なら喜ぶって打算のささみなのかよ!
栃城:犬のお客さんは食べてくれたんだけれど、飼い主のお客さんから「なに食べさせてるんですか!」ってすごい怒鳴られてね。
槍沢:そりゃ怒鳴るわ! 人の愛犬になにやらかしてるんだよ!
   ていうか、一回目と二回目で怒鳴ってくる相手別だったんですか。
栃城:ささみがいけないのかなって、さっき別のもの考えてもらったんですよ。
槍沢:ささみの問題じゃないですって。
栃城:そうしたら牛乳はいいとしてもチョコって……。
   犬にチョコあげちゃいけないことぐらい常識じゃないですか!
槍沢:犬を飼う人の常識で呆れられてたんですか。
栃城:で、盛り上がるかなと思って「みんなが楽しい! おもしろ雑学三百連発」を話したんだよ。
槍沢:そのみんなに犬は入ってないよ。
栃城:他にも話題になるかなと思って「ビッチが大集合」ってムック本も買ったのにさ。
槍沢:本来の意味でかよ! 本来の意味を期待したのが購買理由かよ! 誰が文字通り「雌犬」の話が書いてあると思うんだよ。
栃城:なのにいきなりプッシーとか書いててさ。猫の話は必要ないんだよ!
槍沢:そっちも本来の意味で捉えたのかよ! 別に子猫の話は一言も書いてないよ!
栃城:あらかた説明したんでもう一回相談しますけれど、どう接客したらいいですか?
槍沢:どうって、まずキャバ嬢のオトし方の「犬と人間は対等に扱え」って教え無視しましょう。
栃城:いいの!?
槍沢:いいよ。無視して、差をつけましょう。
栃城:差をつけろって言われても、犬を見たらタコ殴りになんてできないよ!
槍沢:そんなことは言ってないよ!
栃城:だって、いきなり差をつけろって言われてもわからないもん。
槍沢:だからって動物虐待は対応が極端すぎだよ。
   差って言うか、質問するのは犬じゃなくて飼い主だけにしましょう。そうしたら問題全部防げるから。
栃城:それだけでいいの!? うわあ、相談してよかった!
槍沢:これぐらい自力でたどり着いてくださいよ。あれだけ買った本全部無駄じゃないですか。
栃城:そんなことないよ。ちゃんと役に立ったよ。
槍沢:なににですか?
栃城:だって僕の彼女、超人気のキャバ嬢だからさ。
槍沢:前作でキャバ嬢オトしてたのかよ! いい加減にしろ!
二人:ありがとうございました。

本屋

槍沢:気になる本ね……。(平台に近づき手に取るマイム)これとか面白そうですね。
栃城:ああ、いいですね。実力派として知られる著者の力作で帯に書いてある「デビュー作を超える衝撃の最新作」に偽りはないですね。
槍沢:へえ、読んでみようかな。
栃城:ただこちら「三作目には及ばない衝撃の最新作」でして、「その三作目をもしのぐ最高傑作の五作目」もあって、
   さらに「五作目の半分しか評価されていないけれど全体から見れば上の方の八作目」もありまして、「その八作目よりは五ランク上回る衝撃の最新作」って評価ですね。
槍沢:(手を上下に動かして並べ替えるマイム)パズルか! 言われたそばから面白い順に並べていって……頭、パニックになりますよ!
栃城:お客様、誰も「マッチ棒を動かして正しい式を作れ」だなんて一言も言っていません!
槍沢:そういうパズルは想定していないからね! で、最高傑作が五作目だっけ?じゃあ、それ読みますよ。
栃城:お客様……。ですがそちらの作品はシリーズになっておりまして、
   いきなり五作目から読んでも「悪くはないけれどキャリアの中では下の方にあたる十二作目」と同じぐらいしか楽しめず、
   ちゃんと面白さを味わうには「八作目よりもやや下回るけれどワーストの七作目よりも八ランク出来がいい二作目」を読んでいただく必要がありまして……
槍沢:だからパズルやめろ! わかんないよ情報出されても!
栃城:お客様、誰も帽子を使ったテトリスの話はしていません。
槍沢:だからそういうパズルは想定してないんだよ。落ち物パズルにしてもなんでよりにもよってハットリスなんだよ!


コピーバンド

栃城:……なるほどね。
槍沢:すみません、ちょっと熱くなりすぎちゃって。
栃城:センスあるね。
槍沢:あ、ありがとうございます。
栃城:俺、センスあるねえ!
槍沢:え?
栃城:今の話聴いてさ、やっぱり俺センスあるなって。
槍沢:……なんで自画自賛を?
栃城:そんなバンドをコピー元に選んだってことはセンスがあるってことでしょ。
槍沢:いやいや、そりゃ好きだから選んだんでしょ! 栃城さんのPAWNS語りも聴かせてくださいよ! どの曲が好きなんですか?
栃城:そんなのないよ。ていうか、このバンド聴いたことないんだよね。
槍沢:はい?
栃城:だから、このバンドの曲は一回も聴いたことがない。それなのにコピー元に選んだ俺のセンスがすごいってこと!
槍沢:……え? え? 聴いたことない? でもコピーバンドやる? え、なんで?


夢診断

槍沢:なるほどな。心配なのもわかるけれど、人を殺す夢っていうのは案外悪い意味じゃないんだよ。
   その殺した人との間に「新しい関係を築きたい」って考えているのがそういう夢になることもあるからな。
栃城:そうなの?
槍沢:ああ、殺すことに「今までの関係をリセットしたい」って深層心理が表れているんだよ。
栃城:……ああ、そうだったのか。
槍沢:まあ、説は色々あるけれどな。全部この解釈でいいってわけでもないし。
栃城:でも、悪い意味とは限らないって言ってもらえただけで安心したよ。
槍沢:ならよかったよ。ところで、その夢で殺している相手って誰なんだよ?
栃城:お前だよ。
槍沢:え、俺?
栃城:そうだよ。そうかー! 俺はお前と新しい関係を築きたかったんだな!
槍沢:え、俺!?
栃城:そうだよー! すげえ恐かったんだよ。なんせいろんな殺し方したんだからな!
槍沢:知らねえよ! 知らねえし知りたくねえよ! 夢での死に様なんぞ!


師匠越え

栃城:ついに師である私を越えたな。この幻玲拳、新たなる継承者はお前だ。
槍沢:私が……。勝った……。
栃城:おめでとう。(拍手する)よくやった。
槍沢:これも師匠のおかげです。さっそくですが、師匠。幻玲拳の奥義を伝承してもらいたい。
栃城:(拍手のテンポが早くなる)よくやった。うん。いやあ、実によくやった!
槍沢:師匠?
栃城:(槍沢の手を力強く握る)本当、お前はすごいよ!
槍沢:(手を振りほどいて)師匠!
栃城:なんだ?
槍沢:なんですかこのノリ? すごい喜んでますけど?
栃城:だって、めでたいことだろ! 喜ばなくてどうするんだ!
槍沢:弟子に負けたんですよ……なんか、こう……プライドとか!
栃城:いや、だって入門したときのお前ときたら心身ともに未熟でなあ。それからよく成長したよ。感動したよ!
槍沢:感動……。


作家と編集

槍沢:特に登場人物の一人に山本っていますけれど、出てくるたびに山本、山崎、山田って名前変わっていますよね。
   作者も把握できていないくらい影薄いってどういうことですか。こういった犯人以外のキャラ付けを練り直して(原稿を手渡す)また読ませてください。
栃城:(原稿を返しながら)直しました。
槍沢:は?(原稿をテーブルに置く)
栃城:ですから、原稿を手直ししました。
槍沢:なにを言ってるんですか?
栃城:山本の名前がコロコロ変わるのはミスじゃなくて、山本の親が再婚と離婚を繰り返していたんですよ。そういうキャラ付けです!
槍沢:なんですその無理矢理なキャラ設定! だとしても一言も出てないのにキャラ付けもないでしょ。
栃城:裏設定ですから。
槍沢:裏でそんなことやられても伝わらないですよ!
栃城:でも、裏設定で作りましたから。
槍沢:途中、作中時間で五分のうちに山本、山田、山本って出てきますけれど、これも?
栃城:はい。離婚と再婚の結果です。
槍沢:なんなんだその親は! ギネスでも狙ってるのか!?
栃城:あ、いいですね! それも裏設定に加えましょう!
槍沢:勝手に取り入れるなよ!
栃城:なんだったそのスピンオフも書きましょうか?
槍沢:いらないよ! 本編も出せる出来じゃないんだから!
   それに問題は山本だけじゃないからね。女子高生三人組が出てきますよね。いつも三人一緒に行動する。
栃城:ええ。なにか問題ありました。
槍沢:二人しか喋ってないんですよ! 三人もいるのに!
   ミステリの読者って疑いながら読むものなんですよ、これだと「なにか会話できない事情があって、それが真相に関係するのかな?」とか、
   「叙述トリックでも仕掛けているのかな?」とか、なんなら「実は一人は幽霊て主人公にしか見えない存在なのかな?」とかまで考えますよ。
   それがただのミスだったら落胆もいいところだから。ちゃんと三人目の存在意義が出るように(原稿を手渡す)直してください。
栃城:(原稿を返しながら)直しました。
槍沢:だから、直してないじゃん。また裏設定?


破門

槍沢:昔からおまえさんの実力も人間性も買っていたんだが残念だ。
   大方、女にでもうつつを抜かしたんだろう。腑抜けた落語をしやがって。
栃城:そんな、いくらなんでも破門することはないじゃないですか。
槍沢:口答えするな。この世界、師匠の言うことは絶対だ。
   この瞬間を最後に弟子でも師匠でもなくなるが、最後の瞬間まで師匠に従うのが弟子なんだよ。
栃城:だからって……破門だなんて逆恨みじゃないですか!
槍沢:おかしなことを言うな。私怨で破門にする? いつおまえさんが私の恨みを買ったっていうんだい。
栃城:綾子さん……。師匠のお嬢さんと付き合っているからですよ!
槍沢:…………え? 付き合ってる?
栃城:ええ、綾子さんと僕は将来を誓い合った恋人だったんすよ!
槍沢:え、え? 娘と!? おい、初耳だぞ! どうなってるんだ!
栃城:そうだったんですか。でも、もういいです。終わったことですから。(立ち去ろうとする)
槍沢:よくない、よくない! 話を聴かせろ!
栃城:この瞬間から弟子でも師匠でもないんでしょ! 関係ないですよ!
槍沢:今は父親として! 父親として問いただしている!
栃城:もう終わったことですよ!
槍沢:今、始まったこと! 父親としては今始まったことだから!
栃城:そっちももう関係ないですよ。ついさっきフラれたんですよ!。
   「あなたは私よりも落語が好きで、落語がなきゃダメな人。相手が落語じゃ嫉妬もできないよ」って。
   ……親娘で言ってることが真逆じゃないですか!
槍沢:……大変なことになっているんだな。


机上のエブリデイ・マジック


栃城:小二のとき考えた「エスパーロボットスーパーズ」の主人公は?
槍沢:栃城光策。
栃城:小三のとき考えた「牙神の拳士」の主人公は?
槍沢:栃城光策。
栃城:小四のとき考えたギャグマンガ「天晴れ!論平」の主人公は?
槍沢:栃城光策。
栃城:中三のとき考えたダークファンタジー漫画「ネメシスの血脈」の主人公は?
槍沢:栃城光策。
栃城:十六歳のとき新本格ミステリにドップリ漬かった影響で考えた「芸人探偵栃城光策」の主人公は?
槍沢:栃城光策。
栃城:ビームやハルタに載りたい、ていうか志村貴子みたいな漫画が描きたいと思って考えた、想像妊娠した女子中学生の繊細な感情を描くつもりの漫画「未完の胎児」の主人公は、さすがに女子中学生ですが、繊細な感情なんて描けるはずもなく頓挫して、しょうがないので想像妊娠をするに至った経緯を解き明かすミステリにしようと、一作も描いたことのないミステリに路線変更をした際、いずれ考えるつもりの真相を解きかすために登場させるつもりで探偵役に選んだのは?
槍沢:栃城光策。
栃城:そう、その通り、全部俺です! バトルものの主人公も片想いに悩む奥手な中学生も芸人兼名探偵も幻の花を探して世界中を旅する吟遊詩人も売れない劇団員も売れないミュージシャンも売れない小説家も全部俺です!

2019年11月に世代杯に出てきました

 「去年の11月に世代杯に出て来ました。遅きに失するにも程がありますが調子がよかったので振り返ろうかと」と、下書き状態の記事にあったのでおそらく2020年の初頭に書き始めていたのでしょう。全然書き終わらなくて三年近く塩漬けになっていた世代杯の振り返りですが、11月に第二回が開催されるとあっていい加減なんとかしようと書き上げました。



 参加者を大喜利歴でチーム分けして、約一年半までのルーキー、一年半以上六年未満の中堅、それ以上のベテランの三チームから代表者が一人ずつ出て、参加者の投票で一番面白かった人だけが勝ち残り他のチームはメンバーを交代していき最後まで残ったチームが優勝。というのが世代杯の基本的なルール。
 僕はどこからはじめたのか定義は難しいものの、八年ほどやっているためベテランチームに入ることに。錚々たるメンツの中に優勝歴どころか決勝進出の経験すらろくにない奴が混ざっていて始まる前はなかなかに針のむしろの気分でした。
 参加者が揃って主催の俺ランさんが挨拶したあと会がスタート。各チームから最初の回答者が出ていくときに最初に出されるお題は俺ランさん作でなにやらひどそうなことは匂わされていたものの、早くやりたかったので名乗り出ました。
 一周目は自己紹介もかねて出たときに軽く挨拶することになったものの、ボケの準備をしていなかったので「椙田政高です。よろしくお願いします。言いたいことも特にないんでこのあとの大喜利見てください」カッコつけることに。苦し紛れではあったものの似合わぬセリフを言ったおかげで軽くウケてくれて「このあとちょっとやりやすくなったかな」とホッとしたところで出されたお題がこちら。
 「台風の目は無風状態になりますが台風のチンポはどんな状態になる」
 初手、ド下ネタ。ツッコミや戸惑いも含めて荒れ気味に沸き立つ会場をよそに、いきなり変化球が来たこと、苦手な下ネタお題に当たったこと、なにより「これに言いたいのとを込めるのか……」と内心で頭を抱えていました。
 しかしそこはダラダラとはいえ八年やっているベテラン。こういう荒れた場で下らないことをいうと爆発的にウケる(ただ下らないことを言えばいいんってもんじゃないけれど)ことは知っているので、頭を抱えながら浮かんだ「ムフーン状態」と書く。早速挙手を……と思ったらプロジェクターがズレて上手く映らないハプニングがあって調整し直すのを待つことに。そのとき隣のジャージの顔さんが「むふふ状態」と書いているのか目に入り、これを先に出されたらかなりロスするなと考え直すことに。
 改めてお題に向き合って台風の目と男性器の接点を考えていたら(「台風の目と男性器の接点を考えていたら」?)「台風のメス」というフレーズを思い付いて、もうちょっといい語呂にできないかなと転がしていたらそのままでいけると気づいたので出す。

台風の女(め)を追いかける。

 書き直した分、時間こそかかったもののそれなりにウケたので出遅れた分は取り返せたかな。引き続き両者の接点からボケを考えてこの手の話には付き物の大きさの話題からなにか引っ張り出せないかと、巨だの粗だのを書いては消しているうちにひらめく。

上陸する前のニュースでは戦後最大とか言っていたんですけれど、来てみたら小雨しか降らなくて「見栄張ってたな」

 台詞を決めきらずに喋り出したこともあるけれど、フリの長さの割にイマイチな反応しか返ってこず。せめて「見栄張ってんじゃねえよ!」と強く言った方が勢いで持っていけたのかもしれないですが。
 気を取り直して考えはじめたものの、いくらお題とはいえまともに口に出すのが恥ずかしくなってきたので「なんとかごまかせないかな。ティンポムとか」と考えたらその日本語から離れた語感が台風の名前っぽく思えて、台風の名前といえば、ただの印象だけれどニュースで耳にするときは東南アジアの言葉が元になっていると解説されることが多い気がしたのでこの二つをそれらしくなるように整える。

この台風の名前なんですけれど、フィリピン語で野ウサギを意味する「ティンティム」

 「タガログ語では?」と引っかからないか心配したけれどそこはニュアンスでごまかせるかな(そもそも「ティンティムが野ウサギ」なんて大嘘ついているんだし気にしてもって話だけれど)。台風にまつわる情報だからお題から外れているけれどそこもニュアンスでごまかせるかな。と、ゆっくり咀嚼する時間がないことに頼った勢い任せの回答でしたが上手いことバカさが勝ってくれたおかげでここまでで一番大きくウケてくれました。
 これを答えた時点で時間ギリギリだったけれど、最後に一答出したかったので手当たり次第に探ったフレーズからなんとかダジャレを作って間に合わせる。

肉体に暴風雨当たることを略して「肉暴」と呼ばれている。

 ゼロでは無いけれど、完全に足を引っ張る程度のウケしか取れずに終了。こういう貧乏性があるからダメなんだよ。
 こんな感じでかなり波はあったものの野ウサギがウケたおかげでどうにか勝ち残り。ここで負けたら数時間大喜利出来なかったのでかなり胸をなでおろしました。
 続いてのお題は「万引きGメン達が口を揃えて『あいつは凄かった』と言う伝説の万引き主婦のエピソード」
 一転してシンプルなお題に「こっちが一問目だろ!」と会場中から総ツッコミが入る中、二問目がスタート。
 お題を見てすぐに「捕まえたくても捕まらない」って発想から「目立つのに捕まらない」、万引きから泥棒・盗賊へと連想させて「義賊のように盗んだものをあげる」って二つのアイディアが浮かんで組み合わせようと思ったものの上手く組み合わせられず、どちからだけ使って考えようにも発想が転がらずで時間だけが過ぎてしまう。そのうちなかなか出さないことをいじられ始めたので、このまま無駄にハードルが上がるぐらいならなんでもいいから出してこの空気を終わらせようと、形になっていないまま答えることに。

「盗んだあと店にいるホームレスに渡したものをあげはじめて施しをはじめた」

 アイディアが混ざり合っていないってのもそうだけれど、後半も「なんで店のなかにそういう人がいるんだよ」ってツッコミどころを入れたかったのに直接的なフレーズを使っちゃったし、言い回しに工夫しようと温めていた「施し」を使ったのが浮いているしで「なんでもいいから」とはいえ、なんでもからも零れ落ちるような反応しか返ってこなくてなかなかの窮地に陥ってしまう。
 これは急いで挽回しなければと、猛スピードで考えているうちに浮かんだ雑すぎるボケを「ウケるタイプの雑さ」だと判断して勢いそのままに出す。

私のようなGメンだけでなく、万引きQメンにも勝つ

 読み通りに失態を取り返すには十分の大ウケ。補足しておきますが、「ウケるタイプの雑さ」と書きましたが、いつ出してもいいわけじゃなく正確に言えば「スベった直後、矢継ぎ早で出せばウケるタイプ」ってことです。荒れた場でくだらないことを言えばウケるってのを一人でやる感じというか。この自作自演を狙ってできればいいんですけれど、大概が最初のスベりだけで終わるか粗製乱造で観客が離れる悪循環に陥るかの二択で今回みたいに上手くいくのはかなりレアケースなんですよね。
 閑話休題。余裕のできた状態で最初のもう一度「目立つことをしているのに捕まえられない」で漠然と考えていると「盗んでみせます女道」というフレーズが浮かんできた。なんとなく「少女☆歌劇レヴュースタァライト」の星見純那の口上にある「掴んでみせます自分星」っぽくなったので、純那の口上をヒントに全文考えてみる。そのうち時間は切れたけれど最後の一答を待ってくれていたので最低限形になるまで粘ってから答える。

「食品、雑貨に日用品。 私にかかれば全部ロハ 教えてあげよう女のイロハ 盗んでみせます女道」口上をしてから盗んでいく

 ウケはあったものの結果はおせわがかりさんに完封負け。本当に最低限形にしただけで終わったけれど読み方含めてもっと遊べた題材だけにちゃんと時間かけて考えられなかったのが心残り。ロハとイロハの語呂合わせに走っちゃったせいで台詞量含めて元ネタから外れてしまったのも心残り。



 歴ごとのチーム戦のあとはタイプ別でのチーム戦が行われました。
 申し込みの際にお題に沿って回答を考えるロジック、身振りや演技など回答の見せ方に重点を置いているフィジカル、感性で答えるクレイジーの三種から自分のタイプを選んでそれぞれチームに分かれて同様勝ち残りを決めるはずだったものの、人数に差が出たためロジックが二チームに分かれ、フィジカルとクレイジーが合同、さらに選ばなかった人が集まった不明の四チームで競うことに。
 自分ではロジックだと思うのだけれど、ロジックを選んだらみんなから「フィジカルでしょ」って見られるんだろうな……と、幻視した視線に恐れをなしてわだかまりを残したままフィジカルを選び合同チームの一員に。フィジカルを背負ってトップバッターになる勇気はなかったのでしばらく様子見をして三人目に出ました。
 出されたお題は「こんなフランス人は嫌だ」。
 シンプルな嫌だお題でいつもなら「なに出したらいいんだよ」と苦悩するところですが、見ながら「フィジカルだし最初はとりあえず叫ぶか」と決めていたので即座に答える。

ボンジュー! ボンジュー! ボンジュー!

 ウケた・ウケないとかではなく強い戸惑いを残しましたが、ここで戸惑わせることで「変なことをする」って印象を付けられて卑怯な手ではありますが空気をこっちに引っ張れたかなと。これで吹っ切れたのかチーム戦の間はフィジカルの仮面を被ってフィジカルに徹しようと決められました。
 フランス語でなにかできないか考え、フランス語の引き出しの手前に「レヴュースタァライト」の名シーンがあるので使うことに。

あなたに愛の言葉を贈ります。「マ・エスカルゴ」私のかたつむりという意味です。

 ボードには「マ・エスカルゴ(私のかたつむり)」と書いて出しました。回答単体の面白さというより、ただ叫んだあとにしっとりとボケたこと落差が効いたおかげか有効打になりました。それにしても、アニメから入って一年と四ヶ月。これまで一切なかったのに急に「レヴュースタァライト」に影響された答を二つも出すとはね。
 早くもフランスの引き出しが尽きそうだったので趣向を変えてトリコロールでなにかできないかと考えているうちに三層を別のものに見立てることを思いついたので、もうひとつフランスの要素としてフランス料理を組み合わせて「フランスっぽい料理を食べさせると言われて、期待したら三層になっているフランス(国旗)っぽい料理だった」と大枠は作ったので、三層になっている料理を考えたら真っ先にカツ丼が浮かんだのでこれで行くことに。カツってフランス料理が元になっていたからノイズになるんじゃないか迷ったけれど、誰も誰も気にしないだろうと判断しました。

フランスっぽい料理食べさせてくれるっていうから期待したらカツ丼が出てきた。 

 ボードには雑なイラストで卵・カツ・ごはんと説明文つき。ここまで読んで「どういうこと?」と思われたとおもいます。僕も振り返りながらよくわからないぐらいですから。
 結果、無でこそなかったもののかけた時間の割にさっぱりな反応しか返らなくて思わず天を仰ぐ。「八年やってるんだから一回死なないでくださいよ」とガヤで入るぐらい完全に終わったと諦めましたが、「マ・エスカルゴ」の貯金で辛くも生き延びる。
 命拾いして迎えた次のお題は「キモすぎる名探偵の推理するときの癖」。人生の半分以上を推理小説、それも名探偵が活躍するような本格ミステリ好きとして過ごしてきたのでお題を見た瞬間に腕が鳴るというか、ミステリ好きとして負けられないと昂ったものの真っ先に浮かんだのはキモからの発想でして……。

助手にチュッチュする

 ウケた。それも爆発的にウケた。変なツボに入って肝心のチュッチュを笑いながら出したにもかかわらず爆発的にウケた。
 ウケるに越したことはないんですが、先述の通り痩せても枯れても……というか痩せて枯れた時期しかないとはいえ本格ミステリ好きを自認しているのでミステリじゃなくキモでウケたのはなかなかに複雑な心境でした。
 さて、一答目で爆発的にウケたとはいえ、開始早々に大きな一発出せてもあとが続かずジリ貧になることが多いのでこの段階では貯金が作れた安心よりも焦りが大きかったです。
 キモい言動のあるあるやディティールの細かさといった正攻法での勝負もできないので、単体ではキモにならないけれど行動と組み合わせたらキモくなるものを考えたら「妊婦」が浮かんだので、「『何ヶ月ですか?』と質問してあらぬことを考える」と答えようとしたけれど、我が身に置き換えてやましいことを考えたい相手にコミュニケーションできるか? と思い直して直接関わらない方法に書き直す。

妊婦をチラ見する

 「キモくて(キモすぎて)面白い」と大きくウケたんですが、全員にそこまで至らずガヤとも思わず漏れた心の声ともつかないぐらいの声量での「キモ……!」という反応もあり、チュッチュと違って実感から出たことだけに複雑というか、人間として軽く心を折りました。
 出す前に「クセってことは毎回推理する場に妊婦がいるのか?」って引っかかられないかちょっと不安だったけれど、まあ気にしないわな。「毎度毎度妊婦がいるってってバルーンタウンか」って話ですよね(ちゃんと推理小説読んでますよアピール)。
 こんな風に考えているうちに、世代杯の数日前に米澤さんの新刊*1とEOTの動画の紹介とで二日続けて目にしていて頭に残っていた「円空」が顔を出して、円空から「推理のたびに仏像を作る」と思いついて、太い木からいちいち削っていくのは絵としても面白いかもしれないけれど、この前に田んぼさんが「推理用のやぐらを建てる」って答えて爆笑とったあとだったので、方向性が被る上にサイズが小さくて弱くなるからと発想を逆にすることに。

仏像を壊す

 結果、あんまりウケず。組み合わせとして上手くハマらなかったというか、今振り返ると「なんで?」を捻じふせるほどのパワーに欠けているもんな。言い回しも素っ気なさすぎるからせめて「近場の仏像を壊して回る」程度でも付け加えればよかったな。
 キモの周辺から考えた「妊婦」とは逆に、直接的に推理や探偵っぽくなくても連想させるアイテムを考えたら「リンゴ」が出てきた。リンゴでなにするかっていたらかじる。かじってどうなるかっていたらむせる。と浮かんだ連想をそのままボードに書く。さすがにこれだと一直線すぎて弱いからもうちょっと足そうと思い、「かじって」で改行していて空いているスペースを埋めるような文章を付け足すことに。

リンゴをかじってひとしきりむせる

 ひとしきりのおかげで絵のバカさ増えたおかげで仏像で沈んだ分を取り返せました。
 そろそろ時間切れ間際で深く考えている余裕がなくなったので、「推理」になにか付け足せないかと考えていたら「推理音頭」と思いつく。これを単に「推理音頭を踊る」と出してもウケないので、歌詞を考えて「まず『推理』から始めて、それに繋げるなら『できたぞ』かな。『すーいりできたぞ』」まで出来たところで、「これ『クックロビン音頭』のメロディに乗るな」と気づいて元ネタがあった方が作りやすいので替え歌にして答えました。

♪すーいりできたぞ キャホッキャホ! ♪犯人わかった ヤッピッピー! 「推理音頭を踊る」

 無理矢理くっつけたキャホッキャホとヤッピッピーもキモのアクセントになったのか。一番大きかったのはチュッチュの力ですが、さっきと違って一答の貯金だけに頼らず連勝できました。次のお題は今日初めて当たる台詞お題。
「裏のある博士「今日は石器時代に行くぞい」勘の鋭い少年「〇〇」」
 博士と子供両方に設定が乗っていることに戸惑いつつも、「勘が鋭いってことは裏を見抜くってことだよな……」と考えて、「本物の博士はどこだ!」と書く。これだけ出しても急かつそのまますぎるから子供見抜く理由もあった方がいいだろうと思い、お題から唯一手がかりに使える要素を持ってくることに。

……ぞい? 本物の博士ならほいって言うはずだ。「本物の博士はどこだ!」

 正直、勢いで強引に持って行ったんですが、脱力感もあっていい感触。
 このまま調子よく行けたらよかったんですが、ここから「裏がある」がすっかり抜け落ちてしまう。勘の鋭い子供ってだけしか考えなくて

博士がこう言うってことは なにか辛いことがあったんだな。察するなあ。

 続けて

さあて、博士を喜ばすために子供らしさ全開にしますか!

 と出してどちらも今一つ。お題とズレているというのもあるけれど、仮にお題に「裏のある」がなかったとしても、勘の鋭さというか、「気づくこと」と「気づいたあとでの言動」の掘り下げが両方とも浅いからウケとしては大差なかっただろうな。
 ウケなくて焦って思いつかなくなる悪循環に陥っているうちに気づけば終了間際。まだタイムトラベルによる過去改変を使った回答がなかったので一発逆転を狙って考え始めるものの、過去に行った影響を読むから長尺が必要なのに残された時間では到底時練り込み切れず、しょうがなく作りかけて形になっているところだけを出すことに。

過去に行くってことはこうなってこうなって、こうなってこうなって……。よし! 任天堂の株を買い漁れ!

 苦し紛れで出した任天堂が最適解では無いのは当然自覚していたけれど、着地だけじゃなく「こうなって」で終わらせていて具体的にどんなことが起こるかでボケられていないし、自信がないから計算しているときのマイムも小さくて演技なのか無意識に手を動かしちゃっているだけなのか分からなくて気を散らせてしまったとか、振り返れば振り返るほど反省材料が出てくる回答でタイプ別のチーム戦は終わりました。


 最後はもう一度歴に分かれてのチーム戦。
 今回もトップバッターで出る気満々だったんですが、「さっきと逆の順番でやりましょう」と声が上がり他の賛同が相次ぎ、ベテランチーム最後の砦という分不相応にもほどがある役目を任されることに。「頼む! 僕が出る間もなく勝ち切ってくれ!」と祈りながら見ていたけれど、そう簡単には行かず、試合はルーキーチームのゆうやさんが三連勝し、中堅チームを全滅させてベテランチームもあと二人まで追い詰めれれてしまう。
 チームの中から誰かが出ていくルールのため、毎回「次のお題はこんな感じです」と発表されていたんですが、この次のお題が「IKKOお題」だったときに何人かから「椙田さん行ったらいいんじゃないですか?」と声を掛けてもらう。「テンション高く叫ぶのが合いそうだからと推してくれたのだろうけれど、あんまりそうでもないんだけどな」と思ったものの、最後にやりたくなかったので飛びつくように出ていった。そのIKKOお題がこちら。
 「目の前で親友を惨殺されたIKKO『〇〇〇』」
 めちゃくちゃなお題も多かったからお題だけでウケることは多かった中でも一番の爆笑お題。
 瞬間の湧き起こる爆笑と感じる期待に反比例して参ったなと萎縮したまま考えていくことに。何度か言っていることですが、この手の要素で一番手前にあるのがイカルス(イカルス星人)の名曲「Betty Blue」なので(だから明るさよりも哀愁で考えることが多いのが「そうでもないんだけどな」と思った理由です)、回答のリズムを作る意味でも「Betty Blue」から引用して答える。

もうしないと思ったのに、男泣きするとはね。

 さっぱりウケず。そりゃそうだわな。叫ぶの期待されているところにシリアスで来られてもって話だし。 
 好きな曲の中でも特に好きな歌詞を引用したのにこんなザマで申し訳ないやら落ち込むやらこれは期待されている土俵に乗らないといけないのかなと諦めるやらで後ろ向きになっていましたが、直後にゆうやさんが爆笑を取ったところで「乗るしかないか」と腹を括る。
 「目の前で惨殺」から少年漫画で親友が敵にやられるシチュエーションが浮かんで、「漫画なら復讐を誓うよな」と思ったので敵への憎悪や決意をIKKOの定番フレーズと掛け合わせることに。

ぶっ殺けっちー

 最初は「ぶっ殺すっしー」みたいに台詞として成立させようとしたけれど中途半端に残っている方が絶対面白いと判断して「ぶっ殺けっちー」に。
 結果、会場が揺れるほどの大ウケ。お題とゆうやさんが作った流れと会自体も終盤で盛り上がってきたグルーブがに上手く乗っかった感が強いですが、とにかくウケたのでこれは行けるぞと思い少年漫画路線で考え続けることに。「バトル漫画だったら攻撃だよな」と今度はIKKOの定番フレーズで攻撃できないか考え、正拳突きを繰り出して浮かんだ答えを叩きつける

はー!!! 「どんだ拳」!

 文字で読んでもなんで? と思われるでしょうがさっきに輪をかけた爆笑。なんだったら八年やってきた中でも上位に入るぐらいの大爆笑。
 同じ日に同じメンバーで集まっていたとしても、このタイミング以外なら絶対こんなウケにはならなかった、というか会の前半にこのお題が来ていたらそもそも出してすらいない回答ですが、この瞬間だけは絶対にウケると確信して出せた。最初にも書きましたが荒れた場で下らないことを言うと爆発的にウケると知っているから。チーム戦にもフィジカルで出ていたから、動くことへの開き直り(だってフィジカルだから)もあって思いっきりやれたのも功を奏しました。
 とはいえゆうやさんもウケているし、連続してフレーズをもじっているので方向を変えて自身の力や意思の強さを示すボケを出すことに。続けてどんだけを使うのが気になったけれど、ウケさえすれば問題ないと変に強気になっていました。

どんだけー! この指を一振りする間に貴様の首は落ちる

 漫画とかで達人がなにかを投げたあと「これが地面に落ちる前にお前は死んでいる」と宣言するイメージで答えました。先二つに比べるとトーンダウンはしたものの、ここまでの勢いがあったおかげてウケたといっていい量の笑いはあったので、あとはこの変化が印象に残ってくれればと祈る。
 そんなこんなで時間が来たところでまだ使っていないIKKOの定番フレーズを思い出したので最後に使いました。

目の前で親友が惨殺されたこの宿命 背負うだけー!

 爆発二つと比べたら落ちるものの十分なウケ。貴様の首で終わるよりはよりは印象は上げられたはず。
 投票を待つ間、ウケてはいたけれどそれはお互いそうだし、僕はIKKOの浅い要素とダジャレばかり(「どんだ拳」はダジャレとして成立しているかも怪しいですが)だったのでものすごく不安でしたが接戦の末なんとか勝利。
 息つく暇も無くルーキーチーム最後の一人であるおせわがかりさんと連戦。チームの勝ちもあるけれど、一周目で完封されているのでリベンジをしたいところ。お題は「怪盗アホ山から届いた予告状」。激戦の勢いを落としたくないからと最初に浮かんだボケを。

怪盗アホ山、斉藤真則です。って本名名乗っている。

 まあ、ベタだわな。最初は斉藤真二と書いたのですがジャンポケの斉藤さんと読みが一緒だからノイズになるかもと、真樹(まさき)と書き直したらこれはこれで巨人の斎藤じゃん! となって、絶対いるけれどパッと思いつかないから真則でいいや! と答えたんですが、この迷っていた時間もうちょっと有効に使うべきだった。
 次に「自分が盗むのにどの立場で言ってるんだよ」と「言われなくても分かってるよ」とツッコませたくて。

ゴッホの「ひまわり」を盗みます。損害がすごいから保険に入った方がいいよ。保険おすすめだよ。

 記憶をもとに書いているけれど、実際は大して決めずに喋ったんでもうちょっとグダグダでした。どれだけ決めてないかというと「ゴッホの『ひまわり』」と言った瞬間、不用意に固有名詞出しちゃったって焦ったぐらい。
 お分かりだと思いますが、完全に前のお題でスタミナを使い切っていました。この次になんの策もなくボードにジャムと書いたことがそのことをよく現していて、自分でも書いた瞬間にまずいなとは思いましたよ。なにも思いつかないときに頼りがちなフレーズの一番手がジャム(ちょっと前の面白ワードはパジャマだったので「jam」の響きに弱いんでしょう)なんで。
 でも、手癖の安直さを切り捨てる冷静さは持てず、ジャムありきでジャムを盗むシチュエーションを考えることに。

こっちのテーブルのジャムなくなったから、そっちのジャム取るね。

 どっちにしろ差はなかったと思いますが、このボケに決まった時点で醤油とか無くなったから借りるってイメージが湧きやすいものに変えた方がまだマシだったのでは?
 そんなこんなで手応えがないまま時間切れが近づいたところで、なんでなのかわからないけれど松屋が浮かんだので松屋と書く。次に、前の日に行って頭に残っていたので隣にすき家と書く。松屋すき家を並べたら「この二店で比較させようかな。値段と味……あとはメニューの種類か?」と、それぞれの項目を星三つで比較した表を書いたものの、「松屋すき家の比較表が書いてある」だけだと弱いからなにか足せないか考えたら、「ここまで書いたのに無視してなか卯に行く」ってオチが思いついたので一番下の空いていたスペースに強引にねじ込む。

予告状は普通に宝石を盗みますって書いてあるんですけれど、空いたところに松屋すき家を比較した上で、なか卯に行きますってメモしている

 出がらしにしてはちゃんと考えた方ではあるし最後の最後にようやくちゃんとウケたけれど、メモだったら報告調にはしないだろうと「なか卯に行こう」と書き直したのに、もともと書いていた「なか卯に行きます」で答えていて集中力が持たなかった。
 どれくらい差がついたかは覚えていないものの完敗。このあと蛇口さんがタイマンを制してベテランチームの勝利で終わりましたが最後が情けなかったので完全には喜びきれず。波が激しいし課題も多いですがいいところもあったので、そこがもっと出るようになれば。

*1:2019年11月時点での話だったですが、つい最近、文庫版が刊行されたことで一周回って正しい情報になってしまい書きながら苦笑しています。

無職になり損ねています

 仕事を辞めることが決まってから約一ヶ月。本来なら今日の夕方から無職となり将来への不安と引き換えにした無様な自由を謳歌できるはずだったのですが、慢性的な人手不足に加えてこのご時世。いつ陽性だ濃厚接触だで長期離脱が出るかわからないということで留意され、いつ辞めたって大して変わらないとはいえ生活苦が見えているし、半年ほど前から続いている強い歯ぎしりのせいで三週間ほど前に「炒飯を食べていたら差し歯が欠ける」というもぐらさんの下位互換の出来事もあって入用だし、頼りの綱にしていた治験もしばらくはできそうにないしなどの打算が「すぐにでも辞めたい」を上回ったため妥協する形で退職を先送りにしました。
 今日の仕事がラストであとは有給を消化しておしまいのはずが、続けることになった関係で近々消える分の有給を消化するために休みになるというあと二つ三つの因縁話があれば寓話になりそうな臨時の休みをどこか敗北した気分で過ごす。後ろ向きでいたからか部屋を片づけていたらホワイトボードの残骸で指にそこそこ大きめの切り傷を負い、明日以降の延命期間が全ての選択が負の連鎖にしかならないんだろうなと敗北感に暗澹が加わり、さらに歯ぎしりが治る気配を見せないのでどうせまたすぐ欠けるであろう差し歯に五千円の出費も加わってここまでくると余計なことを考えないで済むよう仕事を頑張るしかないなって気になりますね。
 そんな感じでいつまで高年齢アルバイトの肩書が続くかは不明ですが、当面は無職になりそこねました。しばらくは断末魔を綴らなくてよさそうなので、今後は粛々と生きて粛々と足掻いて粛々とやりたいことを成就させます。

四年計画で別の文学大喜利を始める前に

 もう年が明けて二週間なのかと思うし、まだM-1から一ヶ月経ってないの? と驚きもするけれど一番は無職まであと一ヶ月しかないのかになる1月15日。
 昨日は出来もしないことに挑戦するぞ、そして生活を少しでも豊かになどと怪気炎をあげましたが、挑戦なんてものは軸となる生活を落ち着かせてからでないとできないことで(収入がゼロなのに余計に収入から遠のくことなどできるものか)初日にしてすでに進展なしでやる気だけを抱えたまま仕事などで一日を過ごすだけで終わりました。
 それに今は再来週に主催する文学大喜利会のお題づくりや企画の練りこみをしなければいけない……というか、ここ数日焦ったりやさぐれたり落ちたり反動でハイになったりしているうちに手を付けていない遅れを取り戻さないといけないですし。
twipla.jp
 昨年末からの状況の悪化を考慮して生大喜利とオンラインとどちらで行うかは検討中ですが、少しでも大喜利や本にまつわる話が多くできるようにします。タイトル通り本をコンセプトにした会ですが、専門的な知識は必要ないので普段読書されない方も興味ありましたら是非ともご参加ください。

エンタメとしての生き方を

 昨日もあまり眠れなかったのだけれど、来月からの不安ではなく遅まきながら年末に放映された某番組(タイトル書いたせいで検索で来られた方がいたら申し訳ないのでボカしておきます)を観たのが主な原因。
 タイムラインを読んで大まかな趣向は知っていたし内容自体もそれほどハードというわけでもなかったのに、寝るために部屋を暗くしようとしたら思い出して着て身動きが取れなくなってしまった。子供のころからホラーやバイオレンスは苦手だけれどこの手のジャンルへの耐性のなさに驚くやら苦笑するやら。


 なんにせよ昨日と違って夕方まで働ける程度には眠れたので仕事へ。ホラーの余韻があったからか、仕切り直して残された日をしっかり働こうって日が13日の金曜日だなんて縁起でもないなと軽く笑いながら向かったら、思いっきり14日の金曜日で混乱した。そりゃあ僕の1月13日あってないようなものだもんな。
 昼にバイト先の偉い人と面談して退職の日が来月の15日と正式に決まる。有給の消化もあるので籍自体もう少し置くことになるけれど働くのはこの日がラスト。短くなることはあっても延びることはない締め切りを切られて焦りと吹っ切れに似た諦念と苦悩が一挙に押し寄せる。大丈夫なのかね。昨日、マシンガンズの滝沢さんのインタビューを読んで、冒頭の「36歳の時にごみ清掃員を始めた(意訳)」って話にぶっ倒れそうになったのに。前に本か別のインタビューで仕事を探すのにかなり苦労して伝手を頼って決まったのが清掃員の仕事だと書かれていたけれど、滝沢さんでさえそうなら僕はどうなるのよ。
 36歳とはバイきんぐの小峠さんがキングオブコントで優勝し、マシンガンズの滝沢さんがごみ清掃員になり、椙田が路頭に迷う。そんな年齢。


 と、三日続けて同じ調子で日記を書いて実感するけれど、まるでエンタメになってねえ。一昨日、断末魔とは書いたけれどあまりに調子っぱずれで笑ってしまうような断末魔にしたかった(し、贅沢を言えばユーモアも交えつつ読んで楽しんでいただける文章にしたかった)けれど、ただただ中年が困っているだけじゃないかよ。誰が楽しむんだそんなもん。この三日の文章「特に文才や観察眼のない普通の人でも自由に文章を書いて発表できる時代です」ってことを表すサンプル以外になんの価値があるんだよ。
 どうせ仕事探しが最大限成功しても「前のバイト先より給料も働きやすさも人間関係も落ちましたけれどなんとかやっていきます」ってジリ貧を予感させる終わりにしかならないんだし、じゃあ、ジリ貧はジリ貧でいいとしてそれとは別に娯楽になるよう無理難題に挑んでみろって。どうせ公開するんだったらさ。


 と、三月以降が不安すぎて変なモードに入った勢いで、生涯続くであろうバイト探しとバイト暮らしに彩を添えるためにもなにかしらプラスアルファの収入源を模索し、その過程を綴ることにします。
 どうせなら収入の足しにするならモチベーションも上がるし好きなものがよかろう。好きなものといったらお笑いと小説かな。あと、収入にはならないけれど挑んでみたいことでいえば学問だな。と、短絡的な発想で四十歳を目途に「何らかの形でお笑いを生計の足しにする」、「小説を出版する」、「大学進学」を目標に生きることにします。一番やりたいことが一番目標小さいのはどういうことだと思いますが、まあ、そこはそれ。
 この際お笑いは置いておくとして、小説は技能どころか描きたいテーマや込めたいメッセージは一切ないし、大学に関しても具体性が全然ない興味本位だけなので、目標というのもおこがましい「半袖で冬山登ります」とか「板切れに掴まって太平洋横断します」と同レベルの妄言で、窮地に陥った中年の誇大妄想という中年の苦悩と大差ないエンタメ性しかないですが漫然と生きるよりはなにかしら繋がるものもあろうと信じて蠢いてみます(もちろんジリ貧だろうが生活を軟着陸させるのを最優先した上での話ですが)。
 それに僕の場合、物好きの寵愛を受けて仕事を世話してもらう、正確に言えば真贋のわからない物好きの寵愛を受けているうちになにかしらの真になるか、贋のまま騙し続けるか以外に穏やかに生きる道はないので、なにかしら行動している方が物好きの目に引っかかるだろうし。

続・無職になります

 無職へのカウントダウンが始まった。気持ちの上ではすでに無職になったつもりなのだけれどまだ辞めるまではしばらくあるので今日も今日とて仕事(多少の背伸びとプロ意識を持って働かねばという責任感もこみで今後もこう書いていきますが社会的にはバイトです)へ行ってきました。


 ……と書き始めるつもりだった。昨夜のブログを書いたころは。いや、午前一時にもこう書き始めるつもりだった。午前二時も同じように。午前三時で風向きが怪しくなったけれどギリギリ行けると思っていた、というか縋っていた。午前四時でブログをどう書き始めるかが些事になって、午前五時には絶望に苛まれていた。一睡もできなかったから。昨日は帰ってから数時間ほど眠ってしまったという「東へ西へ」の歌いだしじみた理由もあるとはいえ、近すぎる未来への不安がさっそく表れている。で、気づいたら午前六時が迫る。
 寝ていないとはいえ体調は問題ないし、なによりも次の目途が立てようもない状態で丸一日分の給料を手放すのは惜しいし急に休むと仕事先の迷惑をかけることにもなるので行くべきかかなり悩みました。前者に関しては目先の給料で大事故を起こす(比喩でも比喩じゃなくても)リスクを負えるわけがないから休めと常識的な判断ができたものの、後者のかけるかもしれない迷惑を避けるために確実に迷惑をかけることは本当に申し訳なくて理屈を度外視して仕事に行かなければと衝動が沸き起こって抑えるのに苦慮した。
 これが仕事先の人を慮ってなのか、罪悪感を背負いたくない単なる自己愛なのかは判断が難しいところではありますが、なるべく人に迷惑をかけないような生き方を心がけているのは本当なので自己愛じゃないと信じたい。
 まあ、なるべく人に迷惑をかけないような生き方を心がけているのだけれど、無神経にかける迷惑も迷惑をかけないよう一人で抱えようとしてすぐに抱えきれなくなって周りを巻き込む大事故(今のところは比喩としての大事故で済んでいる)を起こしてかける迷惑もたくさんかけているので、こんなことなら最初から人に迷惑かけて当然って生き方している人のほうが周りも用心できる分僕よりもよっぽど素晴らしいのでは? って気もするんですが……ってな具合に「来月からどうしよう」という漠然とした不安(深く掘り下げたくないから漠然止まりにしかできない不安)以外にもこんなこと考えていたんだからそりゃ眠れねえよ。


 一応、六時頃に軽く意識をなくす程度は眠れて体力も精神も多少は回復していたので行くべきではと思ったのですが、寝起きのお前を過信するなと自制して本来なら出勤している時間に連絡して休みにしてもらいました。
 金銭的な不安と「行けたのでは?」という罪悪感で虚脱状態のまま「N.O.」の歌詞で一番好きなところを身をもって体験するかのように眠りにつき昼前に目覚める。薄ぼんやりと痛い頭と焦燥感のままタイムフリーでラジオを聴いたり、こんなことになると思わないでレンタルした映画が返却日なのにまだ観ていなかったので頭に入りきらないままとりあえず観て返却するためだけに外出して一日を終える。
 そんな感じで図らずも無職生活を先取りしたわけですが、まあ心が躍らない踊らない。辞めたらいかに先行きが不安だろうとひと月は本を読んだりゲームをしたり好きに過ごすつもりで、それだけを「来月からどうしよう」への薬にしてきたのだけれど、先が思いやられる。どういうわけか腕を組んで寝ていたせいで体も痛いし。


 昼頃に、なにかのときのために登録し続けている治験の情報案内のメールが来て、その日程が仕事を辞めているであろう時期からだったので申し込もうとするも事前検診の日程の中で空いている日が誕生日しかなかったせいで棚上げにした(後々書くはずですが、毎年誕生日は休みにしています)。この年、この状況で誕生日を特別視するなよ。

無職になります

 丸々一年空けて書くことでもないですが、無職になります。最短四日後、最長一ヶ月後、状況次第では春先ぐらいまで延びるかもしれないですがいずれにせよそれぐらいに。
 今やっている仕事(と、ちょっとだけ見栄を張って書きましたがバイトです)は肉体的にも精神的にもかなり楽で、世間一般と比べたらともかく僕にとっては待遇的にもかなり恵まれたものではあったのですが、楽は楽なりにちょっとずつ積もってきたしんどさが抱えきれないぐらいになりました。最短で今日の午後から無職になるところが少なくとも四日後までに軟着陸して。
 生活に追われるだけの生活がひと段落して今年から好きなことに手を広げられると青写真を描いていたのですが、広げるどころかすべてを手放すことになり自分でやったこととはいえ割と途方に暮れています。四十手前なのに、職歴学歴一切ないのに、このご時世なのに、一人暮らしなのに。貯え一切ないのに。昨日12回払いで新しいパソコン買ったのに(それで書いています)。
 そんな感じで先行きに不安しかない現状ですが、どうせ暇になるのでそれにあかせてなにかしら綴っていきます。ここまで読んでお分かりの通り弱音を吐くのではなく断末魔ですがお付き合いいただけたらありがたいです。