秀でよ凡才

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海猫沢めろん「左巻キ式ラストリゾート」

 「左巻キ式ラストリゾート」という小説がなにやらすごいという評判を聴いて以来、インパクトのある筆名も相まって気になってはいたけれど、普段行くような書店や図書館には置いておらず実物を見ることすらないままいつか読みたいという想いを募らせること早九年――。めでたく復刊されたので喜び勇んで読みました。
 なので内容はおろかアダルトゲームのスピンオフで親本はポルノレーベルから刊行されていたことすら初めて知ったぐらい(そりゃ図書館に置かれないわ!)。そんな予備知識らしい予備知識がない状態で読んだらどうなるかはすでに読まれた方なら御想像の通り。開始早々のポルノシーンといかれたテンションの文章の濁流に面食らうのなんの。面食らい過ぎて数ページ読んだ時点で僕はこれを九年間も密かに待ち続けていたのかとちょっと後悔したほど(笑)。
 エロのみならずグロもバイオレンスもふんだんに盛り込まれたポルノ描写といい十年前だからそう感じるのか当時からそうだったのか取って付けたような属性が乗ったキャラクターといいろくすっぽ説明されないまま放り込まれた書き割りのような舞台といい、普段触れない異文化かつ個人的にあまり得意ではない内容にぐへえぐへえと呻いたり悪酔いしながら読み進めて最終的にどうなったか……。これまた読まれた方なら御想像の通り。どえらいものを読んでしまったという衝撃でしばらく動けなかった。
 終盤から途中の読みがいかにあさはかでいかにこの小説を見くびっていたかという発見がどうでもよくなる(よくはないけれど)ぐらいの展開になだれ込んで衝撃。その衝撃によって生み出される感情はあるのにドロドロとしたマグマのように不定形で言葉にできず、脳が痺れて足腰がふらつくような感覚に――ああ、たぶん少女たちは犯人の手にかかったときはこういう感じだったんだろうな。と薄ぼんやりと呆けるのみ。エロスとバイオレンスに彩られた物語の中で一番のエロスとバイオレンスである崩壊と再生に蹂躙された脳に空虚なはずのラストの言葉がただただ染みいる。
 人生のベストと言い切るには年をとり過ぎたこととこの作品を十全に楽しめるだけの適性がない(ロリキャラ属性が全く好きじゃないこと含めて)のが悔やまれるけれど、それでもなかなかに忘れがたい作品だし貴重な読書体験になりました。人を選ぶ作品だからこそちょっとでもハマりそうな人には問答無用で押しつけていこうと思います。