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秀でよ凡才

出でよ天才と言われても出ていけない男

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5月29日お題「贈る言葉」

テキストコント

(場面は卒業式当日の教室。教師が生徒一人一人に語りかけている)
教師:……あなたは大事な場面で弱気になってしまうところがあって、それだけが非常にもったいない。もっとそのままの自分を信頼してください。
   そんなあなたにはこの言葉を贈ります。「自分はなにがあっても一番の味方。進むべき道を信じて進め」。卒業おめでとう!
   出席番号35。槍沢智宏。
生徒:はい!
教師:……すまん!
生徒:はい?
教師:昨日の夜から生徒一人一人に贈る言葉を考えていたんだが、お前に関してはなにも思いつかなかった!
生徒:どういうことですか!?
教師:先生も頑張ったんだよ。お前で最後だから無理矢理にでも出そうとしたよ。……でも、なにも思いつかなかった!
生徒:ひどいな! え、僕に贈る言葉はなにもないんですか!?
教師:別にお前に思い入れがないとかそういうわけじゃないんだ。ただただ純粋にネタが切れたんだ!
生徒:35個ぐらい用意してくださいよ!
教師:本当になにも思いつかなかった。一応、思いつかなかったときのための保険も用意していたんだが、それも使い果たした後だったからなあ……。
生徒:僕以外にも思いつかなかった生徒がいたんですか!?
教師:武田に贈った「Love and Peace」を最後に保険すらもネタ切れした。
生徒:割と早めに枯渇しましたね!
教師:武田、今の言葉を聴いてショックを受けたかもしれない。でも忘れないでくれ。それすらも貰えない生徒もいるんだ!
生徒:他の生徒のフォローのためにこっちの傷口えぐらないでくださいよ。
   ていうか、僕のひとつ前で長々と言葉を贈ってましたけど、あれ二つに分けて後半を下さいよ!
教師:槍沢。先生は教育者として、そういう心のこもらないやりかたは絶対したくないんだ!
生徒:どの口で言うんですか、どの口で。とりあえず、僕と武田に謝ってくださいよ。
教師:いいか、お前の出席番号が早かったら贈る言葉をしっかり用意できたんだよ。恨むなら先生じゃなくて先祖を恨め!
生徒:なに人の先祖に責任転嫁してるんですか! 僕にもなにか言葉をくださいよ!
教師:やっぱりな。そう言われると思って、今日は下北沢の路上詩人を連れてきた。
詩人:(入ってくる)どうも。
生徒:いや、誰ですかこの人。僕は先生から言葉をもらいたいんですよ!
教師:この人は今、下北で大人気なんだぞ!
詩人:今月だけで50万円稼ぎました。
生徒:すごいけれども! でも、こういうのは先生からもらうから胸に響くんであって……
教師:大丈夫だって。お前の胸に響く言葉を贈ってくれるから。じゃあ、お願いします。
詩人:卒業する君にこの言葉を贈ろう。「夢は必ず叶う」
生徒:……だけ!? なにその薄っぺらさ! 全然胸に響かない!
詩人:やっぱり薄っぺらく感じるかい。
生徒:自覚してるんですか!?
詩人:いやいや。私はあえて薄っぺらい言葉を贈るようにしているんだよ。
生徒:なんでそんなことを?
詩人:言葉というのはどう言い表すかも大切だが、それと同じぐらい誰が言うかも大事だ。
   たとえ陳腐な言葉でもそれを贈る人が込めた想いや言葉を生み出すまでの過程、
   なによりも受け手との関係性によって、中身のない言葉が含蓄に富んだ厚い言葉に感じられ胸に響くことがある。
   それこそが路上詩人である私にとっての理想。
   薄い言葉を私の人間性と生き様によって厚く感じさせられるようになるため、私はあえて薄い言葉を贈っているんだよ!
生徒:……はあ。
教師:つまり人間性を知らない初対面の相手にはまったく心に響かないんだ。
生徒:じゃあ、なんで連れて来たんだよ!
教師:だってこの人はすごい人気なんだよ!
詩人:今月は70万円稼ぐ見込みです。
生徒:ボロ儲けだな!
教師:先生が40万ぐらい払ってるんだけれどな。
生徒:上得意かよ!
詩人:もし、君の心に響かせたいんなら、私の人となりを知るために二泊三日ほど奥飛騨の合宿所に……
生徒:なんで言葉を贈られるために知らないおっさんと旅行に行かなきゃいけないんだよ……。
教師:旅行じゃない。セミナーと言いなさい。
生徒:宗教色が強いな! 70万の理由がうっすらわかったよ!
   ていうか、そんなのいいから! 人間性とか関係なしに胸に響く言葉が欲しいの!
詩人:なるほど。私も路上詩人のはしくれだ。そう言われたら特別な言葉をあげるしかないな。
生徒:ちゃんとした言葉をくれるんですね!
詩人:ああ。……君にも夢があるだろう。
生徒:ありますけれど。
詩人:これから贈るのは夢に向かう君の勇気になる言葉だ。君がなにになりたいのかは知らないから、漫画家と決めつけて贈るね。
生徒:決めつけるぐらいなら訊いてくださいよ。
教師:漫画家以外だったら、お前がなりたい職業に適宜置き換えて胸に響かせるんだぞ。
生徒:なんでこっちが協力して響かせなきゃいけないんですか。
詩人:漫画の神様、手塚治虫が遺した……
生徒:ちょっと待って、ちょっと待って。借り物? 路上詩人のオリジナルの言葉をくれるんじゃないんですか?
教師:言葉は借り物でも、この人は先人の残した言葉を通して自らの想いを込めるわけだ。その想いに差はないだろう。
生徒:そうかもしれないですけれど……。
詩人:手塚治虫が遺したことにこんなものがある。登場人物の瞳の中に星を入れる。
生徒:技法の話!? 言葉を贈ったんじゃなくて、ただ雑学を教えただけじゃないですか!
教師:もし、お前が野球選手になりたいんだったら初めてバットの中にコルクを入れたのは……とかに置き換えろよ。
生徒:応用の仕方が雑! それじゃ規則違反じゃないですか! ていうか、手塚なら手塚でいいですけれど、なにか言葉をくださいよ!
詩人:手塚治虫オールナイトニッポン
生徒:はあ?
教師:1987年の年明け特番で手塚治虫オールナイトニッポンのパーソナリティを務めたことがあるんだよ。
生徒:それ、本当に雑学じゃないですか!
教師:手塚治虫をお前がなりたい職業のオールナイトニッポンパーソナリティの名前に置き換えるんだぞ。
生徒:それ、置き換えたところでなんだよって話ですから!
教師:もし漫画家になりたかったら久保・能町に置き換えるんだぞ。
生徒:手塚のままでいいでしょ!
   ていうか、別に僕はオールナイトのパーソナリティやりたいわけじゃないですから!
教師:じゃあ、どこの局でパーソナリティをやりたいんだ?
生徒:ラジオやりたいわけじゃないですよ!
   ラジオやりたいわけじゃないし、さっきは流れで手塚の言葉求めちゃったけれど、漫画家になりたいんでもないですよ!
教師:じゃあ、なにになりたいんだ?
生徒:路上詩人だよ! 悩んでる人の心を癒して支えてあげられるような心のこもった言葉を贈る路上詩人になりたいんだよ!
詩人:そうだったのか……。じゃあ、その道の先輩として君の勇気が出るようこの言葉を贈ろう。「今月は70万円稼ぐ見込みです」
生徒:言うと思ったわ!
詩人:でも、勇気は出ただろう?
生徒:まあ、ぶっちゃけね…………。
教師:卒業おめでとう!