秀でよ凡才

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大喜利天下一に参加してきました

 少し前の話になりますが、1月13日に第16回大喜利天下一武道会の予選に参加してきました。
 大喜利天下一武道会とはプロアマ入り乱れた大喜利の大会で、今回の予選も東京と大阪で200人以上が参加する日本最大級の大喜利イベントで、今回が五年ぶりに復活僕も僕なりにに気合いを入れて行ってきました。


 前の日にあった予選を見てただ見るだけでもかなり消耗する(無意識のうちシミュレーションしているのもあるとはいえ)ので、なるべくなら早めの出番、なんだったらAブロックがいいなと思ったものの、全部で9ある一次予選のちょうど真ん中のEブロックに。同じブロックで争う五人のうちジャージの顔さん以外は初めてご一緒する方ばかりで、どういう戦いになるのかまったく予想がつかない。


 見ている間はあまり疲弊しないようにあまり考えず笑っているものの、進むにつれて徐々に緊張感が高まる。直前のブロックではポケットに入れただけの投票用紙を紛失したかと取り乱す始末(特に周囲の席の皆様気を散らせてしまいすみませんでした)。
 いよいよEブロック。名前が呼ばれ客席から舞台上へ向かい一礼して席につく。どんなお題が出てくるか不安だけれど、少しでも落ち着いて取り組めるように息を整える。司会の橋本さんのコールと共に背後のスクリーンにお題が出る。そこに写された文字は。

そんなものを夜の港の第三倉庫で取引するな。なに?


 「終わった」と思った。大喜利天下一の特徴として、要素はあるけれど取っ掛かりが少ない歯応えのあるお題が出ることが多くて、この手のお題が苦手なので懸念していたし、練習会にも積極的に参加して対策もしてきたけれどいざ出されたら絶望しかない。
 こういう幅の広いフレーズお題でなに出していいかわからなくて答えられないうちに周りがバンバンウケて、なにか出さなくてはと恐る恐る答えてもいまいち反応がないことに焦った挙げ句、思い付いた単語を精査せずに粗製乱造して自滅する。これをなんど繰り返してきたか。
 これまでやらかした数々の破滅がフラッシュバックしてパニックになっていたけれど、それとほぼ同時にお題を見て反射的に「第二倉庫」という言葉浮かんでいた。
 お題をちょっとイジっただけの小手先のボケで、ウケてそこそこ下手すりゃ大スベりであまりいい手とは言えない。でも、いい手とは言えなくても、フレーズセンスの勝負が始まったら手も足も出せなくなるから、軽くでもなんでもいいのでひとまず出しておいた方がいい。埋もれるよりはアリバイ作りとしてでも答えた方がいいと判断してホワイトボードに書き出す。
 自信がないせいで字が小さいのも焦りのせいで字が汚いのも気になったけれど、先にボケられた瞬間に鮮度がなくなるスピード勝負のボケだから書き直している暇はない。最後まで書き殴って挙手をする。ほぼ同じタイミングでジャージの顔さんも挙手したけれど間一髪で先に指名された。焦りからマイクの取り方や持ち方がおぼつかないけれど、できるだけ落ち着いて答えるよう心がける。

第二倉庫

 会場のあちこちから笑いが起こる。よし! ウケた!
 爆笑には遠く及ばないけれどまずまずの反応。想定内のウケ方とはいえ想定した中ではかなりいい感触で、とりあえず露払いにはなったことに安堵して本格的な有効打になるボケを考えねばと気を引き締めたところで次いで指名されたジャージさんが答える。


 「プチシュー」。


 会場の大爆笑をサイレンにフレーズセンスでの殴り合いが幕を開ける。
 さっそく勝ちを決めたのでは? これまで予選を見ていて一答目だけでは決まらないと重々承知していとも、「勝因」としか思えないほどのジャージさんの大爆笑に絶望、このあとに出すことになったらウケるわけがなかったから助かったというさっきとは別種の安堵、これを上回る笑いをとらねばという焦り、「これじゃ完全にジャージさんの前座じゃねえかよ!」っていう悔しさ、はじまっちゃったという恐怖でごちゃごちゃになりながら強いフレーズを探し始める。


 今思えば無意識のうちにでしたが、なんの縛りのない純粋なフレーズセンスの勝負をしても勝ち目がないからと、犯罪を匂わせるお題ににそぐわないものを考えてその周囲にある強いフレーズを探していました。このシチュエーションにそぐわない交渉で考えると、まず国家間の交渉が浮かんで、そこからの連想で領土や領地、国境線、領空、領海、排他的経済水域……と広げてみたものの、いまいちしっくりくるフレーズが見つからない。
 ならば国家間の交渉からズラして人権が思い付くも、キング牧師的なことにしろリンカーン的なことにしろ題材がセンシティブなだけに扱い間違えたら不快感が出てしまうので躊躇して結局この方向性からはなにも出せず。


 そこで、「ドラマとかだとこういう場合よく取引するのは麻薬だよな……」と立ち返ると、「絶対にやっちゃいけないことなんで」と前フリをつけて「麻薬」と答えることを思い付く。
 第二倉庫と同程度の小手先のボケで今さら出すものでもないけれど、まだやりようによってはウケるし、なにより出せないままよりはジャブでもいいからもう一回打っておきたかったので行くことに。
 思いっきりわざとらしくするか、しれっと答えるか、正義感を見せながら言うか……。どう読み上げるかを考えながら麻薬の薬のくさかんむりを書いたところで予想外のことが起こる。はかいこうせんさんが「ジェネリック覚醒剤」と答えた。


 被った。被った上にジェネリックのっていう絶大に魅力的なワードがのっかってめちゃくちゃ面白い。事実、会場もめちゃくちゃウケている。もう出せない。さらにトドメを指すかのように橋本さんが「どんな覚醒剤でもダメだよ!」と言われたかったツッコミを入れている。僕は力なくホワイトボードの文字を消すことしかできなかった。散々、焦った焦ったと言いましたが、この瞬間が一番焦りましたね。


 とはいえ、諦めるわけにはいかないのでなんとか考える。もう麻薬は出せないから、麻薬とは別にこういうシチュエーションで取引しそうなものを考えると「人質」が浮かぶ。人質にある緊張感をぶち壊すものを。真逆のものを。と、考えて浮かんだフレーズをそのままくっつける。

特製なんですけど、人質パイ

 前フリの部分はよく覚えていない。「人質特製なんですけれど」だったかもしれないし、なにも言わずに「人質パイ」とだけ答えていたかもしれない。
 爆笑とまではいかないけれどそれなりに強いウケは取れた。他の人と比べたときにどうかはわからないけれど、有効打といっていいと思う。ジャージさんの優位は覆せなくてもちょっとだけ流れをこっちに寄せられたか。


 で、ここから調子を出せたらよかったんですが、むしろウケた分、麻薬で青写真通り手堅くウケていたらさらに流れが変わっていたのでは? という未練が出てしまう。
 麻薬を出せなかったから人質パイが出せたのはわかっていても、打つ手がなくなったことで都合のいいたらればが頭をかすめ続けてしまう。それを払って考えようにも第三から引っ張られた「名門第三野球部」。しまいには「名門第三倉庫部」しか浮かばない。さすがにこれがウケないぐらいの線引きはできたので、なんとか思考を先に進ませるために麻薬ともども処理することに。

名門高校の麻薬

 そりゃそうだよね。というぐらいの静かなウケ。むしろ、全くの無反応じゃなかっただけ想定より。消すときに「そりゃそうですよねえ。すいやせん。エヘヘ」てな卑屈さがにじんでいなかったかちょっと不安。


 ここから仕切り直していきたかったものの、この葛藤で時間使いすぎたため、もう時間終了後の最後の一答(俗に言うマジックタイム)しかできなくなっていた。成仏させる意味もこめて形にできなかった固い言葉で終わらせることに。

自由と権利

 少しでもウケるように「自由と」のあと少しタメを作ったけれど、並ぶワードとして意外性があるわけでもないし、そもそも「自由」の時点で倉庫での取引としては違和感のあるフレーズなんだからどれだけ効果があったのやら。



 こうして一問目が終了。あまり人のウケまで気にしている余裕がなかったけれど、それでも「プチシュー」だけでなく後半でも「コミックボンボン」で爆発させたジャージさんが圧倒的に優位なことぐらいはわかる。僕はといえば「人質パイ」がそこそこで手応えは全然ないけれど、まだ二位争いは確定していない感じだったのでとにかく二問目に望みを託すことに。
 天下一に限らず印象審査のお題で劣性を跳ね返したなんども見てきたし、僕も数は少ないけれど(天下一の緊張感のなかでは比較として心もとないけれど)終盤に劣性を跳ね返したこともあるからと、すがるような思いでお題が出るまでのわずかな時間を過ごす。




 二問目は画像お題。昔話の絵本かなにかからの引用か、三人の子供たちが一匹の白蛇を囲んでいじめている(?)イラスト。
 人物や動物が出ていたら台詞で答えるのは画像お題の常套手段ですが、僕の場合は感情乗っけた方が(比較的)向いているので画像では絶対台詞で考えようと決めていたのでいくらでも台詞が言える画像でちょっとだけ強気になれた。わずかな強気を原動力にして台詞を言いやすそうなキャラクターから考えていくことに。
 まず一番に目を引くやられている白蛇の台詞を考えてみたけれど、どうも上手くいかない。次にキャラクターを乗せやすそうだし見た印象を裏切るボケもできそうな棒を持っている主犯格っぽい子供やその子分らしき子供で考えたけれどこれも上手くいかない。
 そうこうしているうちにすっかり出遅れてしまいわずかな強気もすっかり消えたところで最後に残った子供に注目してみる。パッと見ただけでは大雑把に白蛇といじめている子供三人と認識したけれど、最後の子供はちょっと離れていて表情ものんきそうで、いま見つけたところかなんだったら止めに入ろうとしているのでは? と思ったら止める台詞でボケが浮かんでいた。

なあもうやめなって。おいら博愛主義があるんだ

 言わなくていいことを説明するっていうのは頼りがちだし、出遅れた分を取り戻せたわけでもないけれどそこそこのウケは取れた。このあと他のキャラクターの台詞も考えたけれど、この一答で思考のクセができたのか結局全部この男の子目線のボケになって、これも思考のクセになったのか止める理由で考え続けた。

なあやめなよ。この村の民度が疑われるよ

 博愛主義と大差ないぐらいのウケで完全な無駄打っていうわけではないけれど、ここは拙速だった。そんなに強くない「民度」の響きの面白さに頼りきっているだけだもん。これならやめる理由が人の目を気にしてってどうなのよ? ってところを掘り下げた方がよかったな。


 次に、止めるのに「蛇をいじめるよりもっと楽しいもの、いいものがあるよ」っていうズレた理由を持ち出すことを思いつく。しょうもなくて緊張感の消せるものって考えたらパンが出てきて、いま思えば一問目のパイの焼き直しなんだけれど、そこに気づく余裕を失っていた。昔話の世界観のズレは気になったけれど、そこもツッコミどころとして見てくれたらいいなと思ったけれどここも考えが甘いな。
 で、漠然としたパンよりも具体的な方がいいだろう。どうせならあまり聴かない名前のパンなら引っ掛かるな。と、こう答えました。

なあそんなことよりあっちに行こうよ。レモンパンがあるんだよ

 この日一日たくさん反省するポイントがあったけれど、これが一番だな。なんだ、レモンパンって。「なんだそれ?」って引っ掛かりを狙ったけれど、この場合の「なんだそれ?」って引っ掛かりはフックじゃねえよノイズだよ。まだメロンパンならウケなさは同じでもただウケなかったで終わるけれど、これだと「レモンパン」が邪魔になってボケが伝わりきっていないからな。
 名門高校の麻薬とどっこいどっこいぐらいの静かな受けだけれど、少しは笑いが帰ってきただけまだマシか。


 この完全な無駄打ちに焦ったあとこう答えました。

こういう娯楽しかないところが限界集落の悪いところだよね

 ここはなんてボケたか細かく覚えていないです。蛇をいじめることを他人事として外から見る感じで娯楽とか限界集落とかを絡めて答えました。
 いじめすらも娯楽として消費される閉鎖的な息苦しさを軽く扱うギャップを表現したかったけれど上手く伝わらなかったな。……ってか、書いていて思ったけれど僕は茂木健一郎に気に入られたくて大喜利やってるのか? レモンパンよりはちょっとウケたかなという程度のウケ。せめて「これを楽しいとするのならば感情なんてなくなればいいのにな」ぐらいは捻ればよかったな。というか、三分で五答って僕のペースからしたら明らかに答えすぎだから、全体的にもっと練ればよかった。


 そして、制限時間の三分が近づき最後の一答へ。
 ここまでのどのタイミングでだったかは覚えていないですが、人羅さんが爆発を起こしていて、これも細かくは覚えていないのですが「お前らなにしてんねん」と怒りだしてから「見とれ、やったる」(見てるからやっとけってニュアンスだったかも)と答えて、どんな着地の仕方! って答え考えるのそっちのけで衝撃だったし、この画像だけ元のサイト(?)の名前が書いてあるのをイジる、下手にやったら大ケガしそうなボケでも爆笑とっていて、ジャージさんも一問目の勢いそのままウケていたのでこの時点で形成はかなり不利になっていました。
 それでも最後の一答で逆転は不可能じゃないと考えていたら、子供たちの見た目からなのか「忍たま乱太郎がやってくる」が降ってきた。ただの「忍たま乱太郎」じゃなくて祝日や大型連休の午前中とかにやっていた着ぐるみのショーとアニメ何本かが交互にやっていた方ね。
 思い付きそのままに「忍たま乱太郎がやってきたよ!」と答えそうになったけれど、これじゃレモンパンの二の舞になりそうだったのでもうちょっと掘り下げることに。
 しばらく考えたら素行が悪いせいで忍たま乱太郎のレギュラーなのに収録に呼ばれないってボケが浮かんだので「こういうことやっているから忍たま乱太郎に出られないんだよ」と答えようとしたけれど、これだと二通りの意味に取れるなと気づいた。ノイズにならないよう言い回しを変えようとしても「レギュラーなのに呼ばれない」をスマートにする言い回しが浮かばなかったので別解の方に切り替える。
 推敲しているうちに最後に答えることになって、待たせている分、ハードルが上がってやだなあ……と思ったものの、他の人の答えを気にしなくていいから落ち着いて答えられました。

なあなあ、やめなって。こういうことしているからおいらたち忍たま乱太郎のオーディションに受からないんだよ

 ウケたはウケた。ただ、結局はこれもそこそこ止まりで最後まで爆笑には届かず。「なあなあ」のところでちょっと笑いが起こったときは結果的にそれしかできなかっただけとはいえ、貫いてよかったと思った。




 天下一では一番面白かった人にだけ投票するので、爆笑を起こせなかった僕にはどう考えても勝ち目がないし、そもそも票が入らないだろうと、舞台を降りる瞬間から悔し泣きをこらえるのに必死だったぐらい無力感にさいなまれたので、予選終了後の集計時間に何人かの方から面白かったですといっていただいたときは本当に嬉しかったですし、結果も一次予選で敗退したとはいえ僕以外にも十二名の方から投票していただいて泣きそうになるぐらいありがたかったです。
 次回も開催されるのかはわかりませんが、いつあってもいいように精進します。主催および運営の皆様、参加された皆様ありがとうございました。